不動産投資知識

機関投資家(プロ投資家)からみた不動産投資の基礎知識

外資系金融機関で不動産業務に携わる筆者が不動産投資を理解する為に必要な知識をご説明します。

以下の内容は私が不動産投資経験の無い投資家に対して一番触りの部分で説明している内容です。

個人で不動産投資を行う上で全ての知識は不要ですが、より広い意味で不動産投資を理解するという意味では有用かと思います。

Contents

不動産投資とは?

機関投資家(プロの投資家)から見た不動産投資とは

”安定的な賃料収入を収益の源泉とした投資”

です。

もちろん不動産の値上がり益も狙っていくもののリスクを抑えた一番ベーシックな不動産投資というのは”立地が抜群によく、建物の質も高い不動産に安定した賃料収入を狙って投資する”というものになります。
イメージとしては東京駅のピカピカですでにテナントがフルに入居しているオフィスビルに投資したり、都心の駅徒歩5分圏内の築年が浅く稼働が良好で立派なマンションへの投資等がいい例です。

専門用語でいわゆる”コア投資”と言います。コア投資については以下の記事でも説明しています↓

不動産投資を始める前に:リスクリターンの考え方を整理しよう

現在でこそ金融機関等の機関投資家や個人レベルでもだいぶ浸透してきている不動産投資ですが、特に日本では一般的には避けられていた資産でした。

原因は1990年初頭に発生したバブルの崩壊です。詳しい説明は省きますが不動産投資に必須である融資がお上によって絞られた結果(総量規制といいます)、今までじゃぶじゃぶに貸付を行っていた金融機関が一斉に融資を止め、不動産価格の暴落となりいわゆる”失われた20年”と言われる時代に突入しました。

バブル時の不動産価格というのはすさまじく、皆買った瞬間上がるのは当たり前。同日に買って売って利益が出るという状態です。

都内のワンルームが1000万円だったものが1憶円まで値上がりするというまさに狂乱状態です。

価格のロジックなど無いに等しくみんなが買い上げていって金融機関がそこにじゃぶじゃぶお金を融資する状況でした。
株価も当然うなぎのぼりでみんなウハウハ。知り合いによるとボーナスは年4回だったそうです。

当然そうした根拠の無い不動産価格の暴騰は先述の総量規制により一気に巻き戻しが起こります。金融機関が貸付けた不動産が価格が大幅に下落し、売却しても借金を返済できる金額では売れません。

これがいわゆる金融機関の不良債権問題(返済が滞っている融資)につながり、その後言われる住専問題や銀行の再編に最終的につながっていきます。

前置きが長くなりましたが、本来のまっとうな不動産投資というのはこうした急激な価格の上昇を追いかけるものでは無く、賃料を狙ったものです。

賃料が安定していれば比較的不動産価格も安定すると考えており、海外の機関投資家にとっては当たり前にポートフォリオに組み入れている資産になります。

例えば株式や債券等と合わせた市場規模でいうと、不動産は全体の10%程度を占める資産であるといわれています

日本国内でも海外で使われている不動産価格の考え方が浸透していきました。

バブル当時は利回りという概念はほとんどなく、どちらかというと投機に近いものであったことが、日本の機関投資家が不動産投資に及び腰であった原因の一つと考えます。

ただし、リーマンショックによりまた大きく低迷しましたがここ10年で不動産に対する投資は日本国内でも大幅に増加しています。

これは超低金利政策の中で機関投資家は手堅い運用資産である債券に投資がしづらい状況にあり、その代替先として不動産が選ばれ始めています。

巷では”債券代替”と呼ばれています

また、不動産ファンドも時と共に進化していき、ある程度の透明性が確保できたり、その時の投資家ニーズにあったものができてきています。

例えば上場リートや国内私募リート等は特に収益低迷が深刻な地銀にとっては重要な収益ツールとなっています。

不動産投資の魅力は安定的な収入、値上がりによる更なる収益チャンス

機関投資家が不動産(私募不動産ファンド)に投資する目的は、”価格のボラティリティを抑えて手堅く賃料収入からのインカムリターンを確保する”ということです。

不動産投資の核となる収益は賃料収入

不動産投資の魅力はいろいろありますが、やはり安定性だと考えます。一度テナントを受け入れれば一定期間は安定的な賃料収入を得ることができます。

また、一般的に株式に比べて価格が毎日変わるわけではなく安定的です。

従って、不動産投資のキモはいかにいい賃料でテナントに長期的に賃貸をしていき手堅く賃料収入を得ていくかと考えるということになります。

賃料収入だと物足りない場合は、値上がり益を狙う

一方でうまく投資運用を行うことにより不動産価値を高めることができ、売却した場合はそこでさらに利益を上げることができます。

売却利益を上げる運用方法はいくつかあります。

不動産投資で売却益を上げる方法
  • 市場低迷時に安く仕込んで、市場が上がった時に売る
  • 少しくたびれた物件に手直しをして価値を高める
  • 特殊な事情等により売り急いでいる売り手から安く仕入れる
  • テナントが退去している物件を仕入れ、質の高いテナントを受け入れ価値を上げる、等があげられます

市場低迷に仕込む投資は収益コントロールが効きませんが、他については自ら手を加えることで価値が変動するという、いわば事業に投資しているのに通じるものがあります。

不動産投資は株式や債券などと比較するとリスクに対するリターンは良好。ただし、、、

株式や債券と比べると歴史的に不動産(私募不動産ファンド)のリスク調整後リターンは良好

一般論として、不動産のリターンは株式と比例しますが、値動きの幅は株式よりも穏やかであるといわれています。

これは当然株価指数と不動産価格の指数を比べたものなので、個別の株式、個別の不動産でその程度は変わってきます。

なお、ここでいう不動産というのは基本的には私募不動産ファンドのことを指し、上場リートは含まれません。上場リートの値動きは少なくとも歴史的にはかなり株式と相関性が高いです。

この値動きの幅や価格変動の頻度(値動きの激しさ)は投資の世界ではリスクの尺度(専門用語で”ボラティリティ”を言います)言われています。

プロの世界ではどんなにリターンが高くてもおなじくらいリスク(値動きの激しさ、標準偏差で数値化します)が高ければ必ずしもそれはいい投資とは言えません。

どれだけ値動きのリスクを抑えリターンを上げるのかを日々プロは考えています。

詳細のご説明は省きますが、発生したリターンを指数化したリスク(標準偏差)で割った数値でリスクリターンの良好さを測っていきます(リスク調整後リターン)。

この数値が高ければ高いほど、優れた運用であるとプロの世界では言われています。

リターン水準でみると不動産は株式と比較してリターンは控えめですが、価格の値動きは非常に安定的です。
したがって、不動産投資はリターンをリスクで割ったリスク調整後リターンは他の資産と比較して優れているといわれています。

また、債券と比べるとリターンの相関関係はほとんど無いといわれています。

値動きの激しさ(リスク)でいえば債券の方が安定的ですが、リターンの水準は不動産の方が高いため、債券と比較しても不動産のリスク調整後リターンが優れているといわれています。

不動産投資の弱点は”流動性”

こうして書くと不動産投資が一番優れていて投資資産のポートフォリオを全部不動産にしてしまえばいいのでは?となってしまいますが不動産には大きなデメリットがあります。それは”流動性”です。

流動性とはいざ資産を資金化したいときにどれだけ簡単にお金に換えられるかという尺度です。

特に市場が悪化した時に株式や債券は市場を通してさっさと売ってしまえばお金に換えてその日のうちに逃げることが可能です。

それに対して不動産は流動性が非常に低いといわれています。
不動産を売却するには何か月もかかることが一般的であり、株式や債券の様に即換金して逃げるということができませんので、市場が悪化したときはもろに食らってしまいます。

私募不動産ファンドも中には解約できるものがありますが、できて三か月に一度といったところです。上場リートは毎日換金化できますが、株式と同様に価格の値動きは激しいです。

リスク調整後リターンが良好な理由の一つとしてはこの”流動性”を犠牲にしたものになります。この流動性を犠牲にして良好なリターンを確保できることをプロの世界では”流動性プレミアム”とよく呼ばれます。

この流動性リスクを解消したのが上場リートですがこれは結局株式と同じような値動きの激しさがあり、同じ様なものに投資しているにも関わらずリスク調整後リターンは不動産投資の方が一般的には高いといわれています。

不動産投資の基礎知識:様々な不動産投資手法

様々な投資手法

上記でも一部触れていますが、不動産投資とひとことで言っても様々な手法があります。一例としては以下の通りです。

不動産投資手法
  1. 不動産の直接投資:一番わかりやすい投資です。ビルや住宅、マンションへ直接投資します。
  2. ファンドへの投資①(上場リート):いわゆるJリート等があげられます。
  3. ファンドへの投資②(私募ファンド):一般的にはプロ投資家向けのファンドで個人では投資できません。例外としてクラウドファンディング等はここに分類されるもので個人でも投資できます。

投資不動産の種類

主な物件種類としては以下が典型例です。また別記事で詳しく説明していきたいと思います:

典型的な物件の種類
  • オフィス
  • 商業施設
  • 物流施設
  • 住宅
オフィスビル

オフィス:

サラリーマンの出勤先ですね。人によってはですがきれいなビルで共用施設もピカピカだと出社する気になるし、その気にさせるオフィスをテナントである企業は好みます。

最近ではこの従業員が喜ぶ施設作りが大変のようです。

海外では例えば屋上の広場やジムなどを用意するのが鉄板なんだとか。ただコロナでリモートワークが浸透し、過渡期にあるといわれています。

実際に都心のオフィス空室率は上昇(稼働率が低下)しており、オフィス不要論も出てきています。オフィスの今後については↓に詳しく解説しています

コロナで勃発。オフィス不要論の行方はどうなる?

商業施設

商業施設:

いわゆる店舗を主なテナントとしてもの。ショッピングセンターが典型例です。もともとアマゾン等の影響でみんながオンラインショッピングを志向するようになり、実店舗への需要が弱まっていたところコロナの影響で閉鎖を余儀なくされています。

完全な構造変化の最中にある物件タイプであり、用途変更がなされています。

物流施設

物流施設:

上記のアマゾンや楽天等が商品を届けるために必要な施設です。商業施設が苦戦する一方でコロナ禍の中でも絶好調
今一番投資家のお金が集まりやすい物件タイプです。

一方で価格の高騰もみられており、どこが天井なのかをそれぞれ探っているところではあります。
ただしばらくは需要が非常に底堅く賃料も価格も上昇は継続するとみられています。

住宅

住宅:

戸建て、マンション、アパート等。個人投資家としても一番馴染みのあるものでしょうか。やはり衣食住にかかるところであり、不況下でも安定的なリターンがあるといわれています

コロナ禍で都市部から郊外へ人口が一部流出しているトレンドは米国でも見られるものの、セクター全体としては安定的です。


その他:

いわゆるデータセンターやクリニックが集積するメディカルオフィス、ヘルスケア施設など。近年注目されており市場規模は大きくなっていくといわれています。

実際に物流施設と住宅の次にお金が集まりやすいのがこのその他セクター(投資家の間ではニッチセクターとか、オルタナティブセクターと呼ばれています)だと言えます。

不動産投資の基礎知識:個人が不動産投資を行うには

サラリーマンにとっての現実的な選択肢は上場リート → 区分マンション/戸建て → 一棟もの というルートか

いろいろな形で不動産投資ができますが、まず興味をもったら上場リートに投資することをおすすめします。そこである程度勉強した上で直接物件保有をしていくのがいいのではないかと考えます

少額から不動産に投資できるものとしてはJリート等の上場リートとクラウドファンディングでしょうか。

不動産に興味を持ち、まずは少額から始めて勉強してみたいということであればJリートをお勧めします。

現在色々な物件に投資するJリートがありますので、ピックアップして投資すれば自然と興味が出て勉強するようになるでしょう。

上場リート指数に投資したい場合はETFや投資信託なども選択肢になります。

ただし、上場リートについては市場の値動きにさらされるため、必ずしもその時点で正しい不動産価値が反映されているとは限りません。その中で泣く泣く換金という場面が出てきます。

クラウドファンディングについてはすべてのものを見たわけではありませんが、多くは短期間の不動産資金の貸付を行っており、その利息部分が投資家へのリターンになるという感じなので利回りはいいかもしれませんが長期投資をするには向きません。

ただし、回転も速いので寝かせておくのはもったいないと考える資金があるならば一部をクラウドファンディングに入れておくことはいいと思います。

ただ、クラウドファンディングはかなり海千山千なので選別が必要です。

個人的には不動産系であればロードスターキャピタルが運営している”オーナーズブック”が手堅いと思います。

https://www.ownersbook.jp/

別の投資案件に資金組み換えることを続けていくことになるでしょうが、同一物件でなければリスクも違ってきますので注意して見る必要があるでしょう。
いずれ中身を見て私個人の考えもお話したいと思います。また、貸付型であれば不動産の値上がり部分は収益にはなりません。

直接保有することによって手を加えることができ、自分である程度収益のコントロールを行うことが可能になります。

しかし想像に難しくありませんが、とにかく手間がかかりますし失敗するとリスクが大きくなります。ファンドであればコントロールは効かないものの、何10件の不動産からなっておりリスクが分散されるのが大きなメリットの一つです。

個人でも巨大投資家はいますが不動産1件が占める割合は通常非常に大きく、一つが失敗すると全体的に及ぼす影響が甚大です。

個人的な好みとしては区分マンションが好き

これはあくまで個人的趣向ですが、区分マンションがサラリーマンとしては自分に合っている気がします。理由は以下の通りですがいずれ他の種類もチャレンジしたいと思っています。

  1. リートよりは金額がはるが、比較的少額から始められる
  2. 立地が良好なものが選べてリスクを抑えられる。馴染みのある地域を選べる
  3. しっかり管理されているものを選べば管理の手間がほとんどかからない

やはり不動産の肝は立地だと考えるので、一棟ものだと好立地なものはロットが大きくそこに賭けるのには勇気と融資を引っ張る信用力が必要です。

また、普段から仕事をさぼっているとは言え、最低限の仕事をしないとクビになってしまうため、時間はなかなか割けません。

その点区分はちゃんとしたものを選べば日常で時間を使うことはほぼありません。

当然デメリットもあります。
やはり自分で管理していない分、管理費等のコストが多くかかってしまいがちで収支は一棟ものより悪いです。価格も大化けすることは余りなく、一戸投資して何千万も儲けることは非常に難しいです。

一方で安定的な賃料を稼ぐことができるのでミドルリスク・ミドルリターンといったところでしょうか。

区分マンション投資については↓で記事を書いています。
区分マンションは儲からない?私が区分マンション投資する理由3つ

不動産投資のリスク

投資にはリスクがあり、不動産投資も当然リスクがあります。

一番は価格下落リスクです

変動は株式と比べて一般的には緩やかとは言え、金額は大きく個人にとっては致命的になる場合があります。

もう一つは賃料収入のリスクです

テナントが退去してしまえば賃料がなくなってしまいます。つぎに入ってくるテナントが同じ家賃で借りてくれるとは限りません。そもそも次のテナントが見つかるかどうかも分かりません。

マンションであればテナントに不幸があったり、事件がおきた場合は価値が大幅に下落してしまうリスクがあります。

こうしたリスクはどんなに頑張ってもゼロにはできませんが、ある程度は減らすことが可能だと考えます。それはまた別の記事でご説明していきたいと思います。

個人で不動産投資をする際に失敗した場合はどうなるか、記事を以下にまとめています↓

不動産投資に失敗したときはどうなる?【対応を説明します】
自己破産しかないのか?不動産投資に失敗した時の金融機関との交渉方法

不動産投資の基礎知識習得におススメの書籍

ここでは個人投資というよりは、もう少し業務として不動産投資に興味がある方向けの書籍となります。不動産についての知識が全くない中で読むのはかなりつらいですが、少しでもかじっていれば専門的なところがかなり網羅されており、非常に有益です。


-不動産投資知識

© 2024 外資系金融サボリーマンブログ Powered by AFFINGER5