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不動産利回りは不動産投資を検討する上で一番重要な指標の一つ
不動産投資を少しでも勉強したことがある人は不動産利回りについては聞いたことがあると思います。ただし、その意味を本当に理解しているでしょうか?
本記事は不動産利回りの意味を一からご説明していきます。私が普段の仕事で投資のプロとして機関投資家に話している内容絡めてますのでぜひご一読ください。これを読めば意外に?深い利回りについての理解が深まると思います。
利回り=賃料収入÷不動産価値(不動産購入額)=投資から欲しいリターン
不動産利回りとは上記の通り賃料収入を不動産価値(不動産購入額)で割ったものです。利回りが高ければ効率的な投資になりリターンが上がっていきます。ただし、ファイナンスの世界では利回り/リターンが上がるにつれてリスクも高くなるというのが一般的な考え方です。
つまり、1憶の物件で利回りが5%との物件とは年間500万円の収入(=リターン)があるという意味です。逆の考え方として年間500万円の収入がある不動産で5%の利回り(=リターン)が欲しいと思った場合はその物件に1憶円で投資するという考え方になります。
ざっくりとしたイメージですが、例えば都心の新しいオフィスビルは今の市場では利回り3%を下回る水準です。一方で例えば地方の築古のショッピングセンターは8%くらいの利回りかもしれません。オフィスに魅力があるかどうかはまた議論が分かれますが、リスクの観点からは後者の方が価値が下落するリスクを大きくはらんでいるため利回りが高いのです。すなわち不動産投資利回りというのは立地や築年、スペック、物件種類等を総合的にみてどれくらいのリスクを取っているかを考えながら導き出される要求リターンという考え方になろうかと思います。
不動産価値 = 賃料収入 ÷ 利回り
不動産利回りは投資尺度としてどう使用されるのか?
上記だけでは余り利回りのイメージがわかないと思います。実際のどのように使っていくのかを見ていきましょう。
不動産投資利回りの”絶対”な見方と”相対的”な高さ
利回りを見るときは絶対的な見方と相対的な見方があると考えます。
絶対的な見方とはそもそもまず不動産からの利回りとしてこれくらいは欲しい、というリターン水準です。これが利回りを決定づける要因の一つとなります。
もう一つの相対的な見方とは、①ほかの投資資産と比べて割安かどうか、という点と②ほかの物件と比べて魅力的な利回りかどうかという見方です。
①でまず考え方を押さえておくのは、その物件の国債(一般的には10年満期のもの)との比較です。例えば2021年2月現在の10年の日本国債利回りはざっくり0.1%程度ですがJリートの配当利回りは3.7%くらいです。Jリートの配当利回りは厳密的には不動産利回りと完全にイコールではありませんが差にして3.6%程度です。この差額をスプレッドと呼びますが差が大きければ大きいほど投資家はその資産のリスクが高いとみており要求するリターンが高くなります。一方で余りにもスプレッドが高くなりすぎると、本当はそこまでリスクが無いものに対して投資家がビビりすぎということにもなりその資産は”割安”ということになります。今の不動産と国債のスプレッドは15-20年の長期平均と比べても高めですが、国債利回りが歴史上最も低いといっていい状況にあり、これだけで割安と判断するのも適切でなく、非常に難しい状況にあります。ちなみに日本株式の配当利回りは約1.5%程度となります。配当利回りという意味ではJリートの方が高いですが、株式の場合は利益を加味したPERでも見る必要があります。
②についてはまず、異なるタイプや立地の物件と比べて利回りがどの程度かというところを見ます。その上で同タイプで同立地の物件の利回りと比べて割安か割高かを見ていきます。この作業は不動産投資を行う上で非常に大切なプロセスになります。
単純に高い利回りには要注意!
不動産投資利回りは高ければ高いほどいいと安直に考えがちですが、通常利回りが高いということはリスクも高いということを意味します。なぜ、その物件の利回りが高いのかをつぶさに確認することが重要です。
サボリーマンが考える適切な不動産投資利回りの使用法
”相対的”、”絶対的”の両面から使うべし
上述の通り、不動産投資利回りは相対的と絶対的な観点からみていく必要があります。
まず、ご自身の投資資産ポートフォリオでどのようなものに投資しどのようなリターンを上げたいのかというより大きな観点からの利回りを考えます。不動産の利回りはだいたい3~20%程度ですが、もし他に魅力的な投資資産があれば資金をそちらに振り向けた方が効率的です。
その上で不動産投資を行うことを自分の中で決めた場合、同じ不動産の中でどのようなリスクリターンのものを見ていくかを考えていきます。例えば築古の戸建ては15-25%程度と非常に利回りが高いです。一方で都心の利回りは4%程度でしょうか。どちらがいいかはそれぞれのリスク許容度によって異なってきます。
その上で同様の立地で同じ様な物件の利回りをきっちり確認し割高な投資にならないかチェックする必要があります。10%と表面的に高めの利回りの物件でも、例えば同じ棟内の別の区分で13%の利回りで売り出されていた場合はそちらも確認する必要があります(ただし、後述の通り利回りを単純比較するのはキケンです)。
最後に絶対的な観点から、その利回り(リターン)は自分にとって納得できる投資かどうかを考える必要があります。例えば年間120万円の賃料収入がある区分マンションが2400万円で売り出されていた場合、利回りは5%ですが、そもそも2400万円払って毎年120万円の賃料が入ってくる投資は自分にとって魅力的なのか、考える必要があります(実際は借入によるレバレッジや固定費用によって判断は変わってきますが、話をシンプルにするためにこの例ではそれらの変数は無視します)。
不動産投資利回りには必ず”表面利回り”と”実質利回り”の確認しましょう!
不動産投資利回りには”表面利回り”と”実質利回り”の2種類があります。表面利回りとはグロス利回りとも呼ばれ、賃料からそのまま不動産価値で割ったものになります。実質利回りとはネット利回りとも呼ばれ、賃料から通常発生する費用を差し引いた収支から不動産価値で割ったものになります。投資の際はネット利回りが実質的に投資額に対するリターンを表すものになるので必ず確認しましょう。また、表面利回りと実質利回りに余りにギャップがある場合はコストが高いことを意味しますのでよく確認する必要があります。
区分マンションの場合は賃料から通常管理費と修繕積立金を差し引いたものが実質利回りと呼ばれることが多いです。管理費が高い場合は共益部分等によってコストが高くついている可能性か、単純に管理会社がふっかけている可能性があります。修繕積立金が高いのはまだマシですがその見積額の根拠によって今後建物の修繕に多額がコストがかかることを示唆している可能性もあるのでよく確認が必要です。チェック方法についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。区分マンションはこれらのコストを抑えることができないというのが大きなデメリットになります。また、これ以外にも固定資産税や所得税、借り手変更にかかるコスト、賃貸管理手数料等コストがかかるので本当の意味での実質利回りは自分で計算して投資判断を行う必要があります。決してマンション販売業者や仲介業者の言われるがままにせずに自分でチェックできるようにしたいところです。
また、プロの世界では利回りをキャップレートと呼ばれ、だいたいの場合は実質利回り(NOI利回り)と指しますがミスコミュニケーションを避けるためにも念のため相互確認をする必要があります。また、実質利回りから更に修繕などの資本支出を差し引いて計算したものをNCF(Net Cash Flow:ネットキャッシュフロー)キャップレートと呼ぶこともあります。
利回りだけに頼る不動産投資はキケン!
間違いなく言えるのは利回りの高さだけに目が行って投資を行ってしまうことです。区分マンションを含めた不動産投資を行う場合、立地、クオリティ、築年や近隣の賃料、坪単価など、利回り以外の項目全てをじっくりみた上で投資に値するか否かを判断する必要があります。もう一点、大切なこととして、表面利回りと実質利回りを確認することです。
例えば以下の条件の区分マンションではどれが一番魅力的な投資案件でしょうか?
①首都圏築古区分マンション
立地:神奈川県某市。最寄り駅まではバスで5分。バス停までは徒歩7分。住宅街で近隣に大学や工場等の就業施設はなし。
築年/広さ:築29年/18平米
価格/利回り:750万円/表面利回り9%、実質利回り7.5%
②都内築浅区分マンション
立地:東京城東地区の某区。大手町駅まで乗り換えありで30分。最寄り駅まで徒歩9分
築年/広さ:新築/23平米
価格/利回り:2600万円/表面利回り6%、実質利回り4.8%
③都心区分マンション
立地:東京都港区、最寄り駅まで徒歩5分
築年/広さ:築13年/25平米
価格/利回り:2600万円/表面利回り5%、実質利回り4.5%
結論から申し上げると、正解、不正解はありません。ただ、私であれば③を選択すると思います。
①は一番利回りが高いですが、一旦借り手の方が退去した場合にまた賃貸付けするのは苦労しそうな雰囲気です。交通の便があまり良くなく近くに学校や就業先が無ければなおさらリスクは高そうです。自分が住んでいて地域を熟知していなければ手は出さないでしょう。
②も手を出さないと思います。近年の市況からすると新築の割に利回りは高めですが、価格と利回りを掛けて12で割ってみてください。2600万円×6%÷12=13万円になり、これが毎月の収入となる賃料ですが、逆を言えば城北地区で駅から徒歩9分と遠め、23平米で13万円を払うでしょうか?直感的には新築で賃料が上乗せされている様に感じる為、この賃料を維持できるイメージがわきません。よほどその他で納得できる材料が出ない限りは検討から外すでしょう。
③は一番利回りが低いですがさらに検討をすすめるかな、と思うかもしれません。築13年となんか中途半端な築年ですが、②と同じく価格から利回りを掛けて12で割ると約10.8万円になります。もちろん港区のどこかによりますが、築13年25平米で駅から5分であればもう少し高い家賃を期待できるかもしれません。
例えば今の賃借人が退去して再募集をし、月額12万円で賃貸できた場合、12万×12÷2600万円=5.5%と利回りが上がることになり、重要な実質利回りは②の物件を上回ることになるでしょう。
従ってこのような情報が出てくれば、仲介業者にコンタクトをとりつつ同じような地域での売り出し状況や同等の物件の賃料水準をつぶさにみていくことになります。おそらくこの価格や利回りで売り出していれば今の市況ではすぐに買い手はついてしまうでしょう。
①を購入する場合は前述のとおりその地域に精通しており賃料や下がらずに借り手を付けることに自信がある場合です。その場合だと利回りが高いので検討する価値はあります。ただ、築年が経っており中々融資をしてくれる金融機関を探すのに苦労しそうです。
②を購入する場合は、築年と共に賃料が下がらない自信がある場合です。例えば入居者を引き付ける魅力的な共用施設があったり、その地域唯一の新築供給であったり、地域全体が再開発に入っていて活性化が見込まれる、等の情報が必要になります。
以上が単純な空想の例ですが、利回りだけを見て投資判断を行うのがいかに難しいかイメージが付いたかと思います。利回りの基となる賃料水準や価格の感覚を立地や築年、そのたスペックをみながら相場観を付けていくことが重要です。
利回りの理解は不動産投資の第一歩!
利回りの考え方を理解すれば不動産投資への理解がぐっと深まります。まずは概念や考え方を理解して積極的に活用しましょう!ただし、不動産投資利回りも万能ではなく、あくまで尺度の一つですので注意しましょう!
不動産利回りの理解をさらに深めたい方はこちらをご参照ください:
不動産投資で絶対に理解すべきたった1つの数式とは?
不動産投資を始める前に:リスクリターンの考え方を整理しよう
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