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中国人投資家が注目するコロナ禍での旅館・ホテル投資を考察

2021年4月12日付の日経新聞で”中国人投資家、苦境の旅館に食指 2月の相談2倍も”という記事を見つけました。投資家がどのような狙いで旅館やホテルに目を付けているのか解説したいと思います。

はるか太古の事ですが、私自身仕事で一時期旅館やホテルの事業再生業務に携わっていたので今後の展開にも強く興味を持っています。

日経新聞記事によると中国人投資家が苦境の旅館やホテルを物色中

有料記事になりますが、日経新聞での記事が目を引きました↓

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOHD033S20T00C21A3000000/

詳しい内容は記事に譲りますが、要は中国人投資家が旅館やホテルに強い興味を持っており、買いの問い合わせが急増しているという内容です。

また、トレンドとしてただ和風の旅館に興味を持つというだけでなく、高級路線の凝ったものにも対象が波及しているということです。

中国人投資家による旅館やホテル投資の狙い

記事が正しければ、中国人投資家はどのような狙いがあり、日本の旅館やホテルへの投資を検討しているのでしょうか。私は大きく分けて3点あると考えます。

旅館・ホテル投資の狙い

  • 旅館・ホテルを価格の「底」で購入できる可能性
  • 旅館・ホテルの初期設備投資額の抑制機会
  • 旅館・ホテルの大幅なバリューアップの機会

旅館・ホテルを価格の”底”で購入できる可能性

去年から1年以上続いているコロナ禍のなかで、ホテルや旅館は全般的に大苦戦が続いている状況です。

最悪期に比べると、幾分か稼働率も回復しているように見えますが、直近においても変異株の急増などによりまた更に人々の移動が制限され、苦境が続く可能性が示唆されます。

私を含めこの出口が中々見えない状況で参ってしまっている方が多くいらっしゃると思います。

この不確定要素は大きい中で、旅館やホテルのオーナーの体力にも限界があります。その中で一旦事業の手じまいを判断し、売却を検討するオーナーもいるでしょう

ただし、旅館やホテルにリスクを取って投資できる投資家も限られています。また、旅館やホテル投資には通常融資が必須となりますが、金融機関は旅館やホテル投資への融資はほぼストップしている状態です。

一方で、ワクチン接種は他国に比べて遅いながらも進んでいく中で、投資家は既にコロナ終息後の世界を見ています。それが株価にも顕著に表れています。

旅館やホテルについても以前のピークに戻るかどうかは分かりませんが、コロナが収束さえすれば一定程度の利用客の戻りは望めるとみられています。また、国家間の移動の制限が継続すれば国内での宿泊需要も期待できます。


この回復を見越してリスクを取れる投資家は一定数おり、先日紹介したブラックストーンの近鉄グループホテル投資も、規模は違えどおおまかな投資ロジックは同じでしょう

ブラックストーングループが近鉄GHDのホテル8件買収【お見事】

そういった意味では多数がリスクをとりづらい中でリスクを取れる投資家は、いい価格で旅館やホテルを購入する機会があるということになります。

旅館・ホテルの初期設備投資額の抑制機会

上記と関連し、具体的な取引金額がどのようになっていくのかは分かりませんが、できるだけ安値で買い叩きたいというのは投資家の本音です。

売りに出しているという事情を鑑みると売り手となる旅館のオーナーは①コロナやその他の要因で経営が立ち行かなくなっているか、②経営状況とは関係なく後継者不在の為売却を検討するか、大きく分けて二つかと思います。恐らく両方に対して中国人投資家は興味も持つでしょう。

①であれば買い叩くチャンスですし、②も経営状態によっては優良なキャッシュフローを生む資産として魅力的であれば購入したくなるはずです。

温泉旅館にしろ、ホテルにしろ、一から新築で建てるには莫大な資金が必要になります。ある程度の減価償却で簿価が下がっているとは言え、よほどのキャッシュフローが出ている物件でなければ、当初投資額よりディスカウントで買い取ることができるはずです

旅館・ホテルの大幅なバリューアップの機会

投資家によっては投資後、そしてコロナ終息後に大きく旅館・ホテルの価値を向上できる可能性があります。特に中華系の投資家であれば、中国人観光客を呼び込むルートを確保しており、売上を急回復できる仕組みを用意している可能性があるからです。

売上が上がれば旅館・ホテルの価値があがるのは何となくイメージがわくと思いますが、簡単な数式で表していきます。

旅館・ホテルの価値算出法は基本的に他の収益不動産と同様

基本的に旅館・ホテルの価値算出法は以下の通りで他の不動産と大きくロジックは変わりません。

旅館・ホテル価値 = NOI(純収益) ÷ 利回り

利回りは金利や経済環境などの外部環境で決まってくるので投資家はコントロールすることができませんが、NOI(純収益)は経営努力次第で変化させることができます。

【超重要】不動産投資で絶対に理解すべきたった1つの数式とは?

旅館・ホテルの他の不動産と違う点

旅館・ホテルのNOI(純収益)は運営次第で大きく変化します。これがオペレーショナルアセットと呼ばれる理由になります。オフィスや住宅などの不動産は安定稼働している限りは大きく利益は変動しません。

上の旅館・ホテル価値算出の式のうち、NOI(純収益)はざっくり以下の式で出されます。

旅館・ホテルのNOI(純収益) = 売上 - 費用

当たり前と言えば当たり前の式ですね。私は一時期仕事で旅館やホテルの事業再生の業務に触れていました。旅館・ホテルコンサルタントも雇い色々やりましたが、事業の立て直しは並大抵のことではありません。

取り組みやすいポイントは、やはり費用にあります。経営苦境にある旅館やホテルは大抵、オーナーが多すぎる給与収入を得ていたり、無駄な経費があったります。当時の典型的なパターンはいけてない大規模設備投資を行い売上が上がらず、設備投資の為に借り入れた負債がのしかかっている状態です。

なので、まず取り掛かることとしては、オーナーが使ってしまっている無駄な経費(自身への給与も含む)を大幅に抑制します。そして借入の返済についても金融機関と交渉し、一定の猶予をもらいます。もちろん従業員宛の給与や運営に必要不可欠な経費は維持します。

ここまでは当時の私の様な並の事業再生家、コンサルタントでもできる最低限の対応です。一方で中々伸ばせないある意味一番重要な指標があります。それは売上です

旅館・ホテルの売上最大化を目指すために一番重要な指標はREVPAR(Revenue per Available Rooms)です。直訳すると販売可能な客室1室あたりの売上、となります。式は以下の通りです。

REVPAR =ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)× OCC(Occupancy Rate:稼働率)

ざっくり計算の仕方ではこのREVPARを部屋数でかけたものが一日当たりの売上高になり、それを365日かけると1年の売上になります。

平均客室単価(ADR)を高くしすぎると稼働率(OCC)が下がるし、ADRを下げ過ぎるとOCCが上がっても客室単価が伸びず、売上アップにはなりませんので、需給を見ながら調整を行う必要があります。

比較的小規模の旅館であれば例えば風呂の設備などハード部分に手を加えたり、食事の質を大幅に改良したりサービスを充実させることでリピーターが増え、少しずつREVPARを改善していくことができることがあります。

しかし、一定規模になると個々の努力ではどうしようもないこともあります。特にハコが大きいとただでさえ都市型ホテルに比べて稼働率が低い旅館は苦労します。コンサルタントも色々なコラボレーションを企画しますが特効薬はありません。

JR等の鉄道会社や航空会社、大手旅行代理店が開催する一時的なキャンペーン等に頼ったり、行政の企画も影響します。時に地元の競合他社と協力することもあります。

すなわち、旅館やホテル個別の”点”の努力ではどうしようもなく、その地域全体の”面”での対応でなければ売上が伸びないという時もあります。わかりやすい”面”の例はコロナです。このようなイベントが起こってしまうと個別の努力ではどうしようもなくなってしまいます。

ちょっと前おきが長くなってしまいました。記事にも書いてありましたが、中国人投資家によってはこの”面”の対応ができる可能性があるというのが大きなアドバンテージになるのではと感じました。

すなわち、日本に旅行をしたい中国人顧客層への太いアクセスを持っている場合、REVPAR指標の様に細かく単価と稼働率をケアしなくてもコロナさえ収束すればがっつりと稼働させて売上を大幅に伸ばすネタを持っているという点です。これは国内の投資家には中々ないポイントになるのではないでしょうか?

つまり、売上を爆増させるネタを既に持っていれば、コロナ後の旅館やホテルの価値を大幅に向上させることができるポテンシャルに目を向けた非常に経済合理的な投資ということになりますつまり、コロナ終息による自然回復に加えて、業績回復を更にブーストできるネタを持っているというのが投資家の強みなのかもしれません(本当のところはわかりませんが)

そうなれば継続的に保有して得られる収益をエンジョイするもよし、仕組みを軌道にのせ、稼働率が安定した段階で他の投資家に高値で売却してもよし、という魅力的な投資に見えるかもしれません。

コロナ禍での旅館・ホテル投資まとめ

旅館やホテルに投資をする中国人投資家

中国人投資家は一般的に機を見るに敏で、非常に素早いスピードで積極的に投資を行える強みがあると考えます。日本人が中々躊躇して投資できないところをリスクを取って投資することができる方たちです。

当然、損するときは損しますが、果敢にリスクを取った人たちはその分報われます。これは投資家の国籍には関係なく資本主義の理であると考えます。これは米国人であろうと別の国の投資家であろうと経済合理性にのっとった投資行動を行います。

そして国籍関係なく果敢にリスクをとってもらうおかげで恩恵にあずかることができる人たちもいることも事実です。

記事には”6割が投機目的”とありましたので、例えば元々の従業員を全て解雇され、地元経済に全く還元されない施設となってしまった場合は非常に残念ですが、うまく地元と融和していくようなビジネスモデルにしてくれるのであれば全体にプラスになる話になるのかもしれません

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