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ブラックストーングループが近鉄GHDのホテル8件買収【お見事】

米投資ファンドブラックストーン・グループが近鉄グループHDの都ホテル京都八条をはじめとするホテル8件を買収すると発表しました。近鉄グループホールディングスはどのような思惑で売却したのか、ブラックストーンはどのような戦略で買収を決めたのか、考察したいと思います。

Contents

ブラックストーングループとは

元々は巨大LBOファンドから派生した運用会社

ブラックストーン・グループとは、旧リーマンブラザーズを退職したスティーブン・シュワルツマンとピーター・ピーターソンによって1985年に設立された巨大投資ファンドです。

元々はLBOファンドとして当時の買収額の記録をなんども更新していた剛腕PEファンドですが、近年では巨大な不動産ファンドとしても広く知られています。

近年のPE的な買収では武田薬品の大衆医薬品(現アリナミン製薬)の2400億円の買収が有名でしょうか。

今回は近鉄グループホールディングスのホテルポートフォリオ8件買収のニュースです。

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ブラックストーングループの得意技は大型買収

ブラックストーングループの印象としては特に大型案件を好みます。不動産投資では1物件当たりの巨大な買収もよく行っていますがポートフォリオ単位でがっつり仕入れるのが得意です。そして動きもとてつもなくスピーディです。

英国のBREXIT問題が発生した時に不動産投資信託の解約が相次ぎ混乱があった中、目を付けたブラックストーンがロンドン中心一等地の店舗物件買取を確か2週間で決めたという事例もあります。

ある意味黙っていてもお金が集まるので、規模にこだわるのは運営上当然のこととは言え毎度取引がニュースになると度肝を抜かされます。

まさに投資における最強集団と言っていいかと思います。日本国内でもこの規模感でここまでの投資集団は中々いないかと思います。

主にLBOの話が中心ですが、↓の書籍でブラックストーン・グループの投資行動が何となくわかります。実務では話が大きすぎて参考になりませんが…

近鉄グループによるブラックストーングループへのホテル売却の目的は

以下のリンクに実際のプレスリリースをたどれるようにしておきます。

https://www.kintetsu-g-hd.co.jp/common-hd/data/pdf/20210325-kghd20210325134316166473884.pdf

やはりコロナを発端としたリスクの軽減化と資産のスリム化か

売却した理由はおそらくコロナで発生したホテルの大幅な赤字の立て直しの一環だと考えます。決算説明資料をみると明らかにホテル部門が足を引っ張っており、約120億円の営業赤字です。

近鉄GHDからみたホテル売却のメリット

近鉄GHDのホテル売却メリット

  • ホテル売却益の発生
  • 資産のスリム化
  • 引き続きホテルオペレーションを担当することによる収入減確保


ホテル売却益の発生

近鉄GHDの開示資料によると、ホテル8件の帳簿価格は約420億円です。一部報道によると売却額が600億円とあるので、もしこれが本当だとすると約180億円の売却益が発生します。

2020年8月期の近鉄グループ業績を見ると半期で300億円超の純損失でした。特にホテルの営業損益は120億円の赤字です。

近鉄グループからすると今回の取引でかなりの程度赤字を補填することができそうです。

資産のスリム化

本業の面から考えると近鉄グループの資産は巨大です。資産額は2兆円にせまる規模です。資産が巨大であれば景気がいいときはいい方向に働きますが、悪い場合はとんでもなく重荷になります。

経営効率の観点から資産は、業種柄しょうがない部分はありますが余り持ち過ぎないというのは重要かと考えます。

引き続きホテルオペレーションを担当することによる収入減確保

開示資料を見る限りは近鉄グループとして売却後もオペレーションは継続するとあるので、資産を売って終わりではなく、売却した資産からも引き続き収入を確保できるというメリットがあります。

ブラックストーングループの近鉄グループホテル買収の狙いは?

投資は割安の時に仕込むという基本に忠実な行為

コロナ発生によりホテルの稼働は全世界で大きく落ち込んでおり、価値が低下しています。ただ、コロナが収束すれば稼働も徐々に戻っていくという前提が正しければ、価値も回復する見通しを持てます

結局ブラックストーンはこのコロナの収束具合の部分についてリスクを取りベットしているのだと考えますが、やはり中々他の投資家が手を出せないなか、おそらく割安な価格で購入するという行為は投資の王道とも言えます。

特に今はホテルの投資で融資がつかない状況にあり、たとえ買いたくても買えない投資家もいます。その点、ブラックストーングループは資金力は全く問題なく、レバレッジを使いたければホテル物件でなくファンドレベルで融資を受けられるので、他社と比べて大きく優位な位置にいます。

果たして本当に割安な価格で購入しているのか

全く資料がないので、適当に買収額と、コロナが収まり平常運転になった時の価値を試算してみました。本当に適当なのであくまでこういう考え方があるのだという程度でご覧ください。

本当に適当な買収額の試算

ポイント

  • 観光客、ビジネス客がコロナで減少し、稼働率が全て50%
  • 需要の鈍化で客室単価も安めに設定
  • 固定費用を賄えずNOI率は15%に
  • ホテルリートのコロナ時の鑑定キャップレート(利回り)を使いで安定稼働後想定評価額を算出


ホテル名帳簿価格
(百万円)
客室数想定
客室単価
想定
稼働率
想定
RevPAR
想定売上
(百万円)
NOI 15%利回り想定買収額(A)
都ホテル 京都八条14,40398820,00050.0%10,0003,5575342.00%26,676
ホテル近鉄ユニバーサル・シティ8,48445620,00050.0%10,0001,6422462.00%12,312
都ホテル 博多14,31620825,00050.0%12,5009361401.50%9,360
神戸北野ホテル9863040,00050.0%20,000216323.00%1,080
都リゾート 志摩 ベイサイドテラス90510820,00050.0%10,000389583.50%1,666
都リゾート 奥志摩 アクアフォレスト21912720,00050.0%10,000457693.50%1,959
都ホテル 岐阜長良川1,83719215,00050.0%7,500518782.50%3,110
都ホテル 尼崎1,15218515,00050.0%7,500500752.50%2,997
合計42,3022,294---8,2141,2322.08%59,161

ホテルリートの情報を適当に見ていると客室単価と稼働率はともに劇的に低下しているのでRevPARはとてつもなく低い水準にあります。恐らく上記の試算よりも実態は低いでしょう。特に赤字である前提であれば客室単価や稼働率はもっと低いかもしれません。というより近鉄の事業別収支みたらホテルが大赤字なのでNOIが15%もないと思います。むしろ本当は赤字でしょう。

稼働率もリート情報をみるとだいたい50%程度でした。

利回り(キャップレート)はやはり収入が減少しているので2%台のところが結構ありました。星野リゾートの利回りは絶好調みたいでしたが余りにホテル形態が違うので参考にしませんでした。

単なる数字遊びになってしまっていますが、2%くらいのキャップレートでほぼ総額600億円になりました。

余り分析せずに計算したのでもし前提条件をこうした方がいいとアドバイス頂戴できれば非常にうれしいです

本当に適当なコロナが収まった場合の想定価値

試算の前提条件

  • コロナが収束し平常運転に
  • 観光客、ビジネス客が戻り、稼働率が60~80%程度に回復
  • 需要が戻ったことにより、客室単価とRevPARが上昇
  • 固定費用を大きく賄えるようになり、NOI率が20%まで回復
  • コロナ前の鑑定キャップレート(利回り)で安定稼働後想定評価額を算出
ホテル名想定買収額(A)
(百万円)
客室数想定
客室単価
想定
稼働率
想定
RevPAR
想定売上
(百万円)
NOI 20%利回り安定稼働後
想定評価額
都ホテル 京都八条26,67698825,00080.0%20,0007,1141,4234.00%35,568
ホテル近鉄ユニバーサル・シティ12,31245625,00080.0%20,0003,2836574.50%14,592
都ホテル 博多9,36020840,00080.0%32,0002,3964793.50%13,692
神戸北野ホテル1,0803050,00070.0%35,000378764.50%1,680
都リゾート 志摩 ベイサイドテラス1,66610825,00060.0%15,0005831175.50%2,121
都リゾート 奥志摩 アクアフォレスト1,95912725,00060.0%15,0006861375.50%2,494
都ホテル 岐阜長良川3,11019220,00070.0%14,0009681944.50%4,301
都ホテル 尼崎2,99718520,00070.0%14,0009321864.50%4,144
合計59,1612,294---16,3403,2684.16%78,592

鉛筆なめなめの全く根拠がない試算ですが、客室単価(ちょっと高く設定しすぎたかもです)と稼働率(ビジネスホテルだけではないので本当はもっと稼働率は低いかもです)が戻り、コロナ前のキャップレート(多分本当はもう少し高めですが許してください)で評価額を適当に出すと総額で約786億円の評価額となります。

つまり、600億円で買収したホテル8件が、785億円まで価値が上がる可能性を秘めています。

このように(ほんとか?)、通常付加価値をもたらす管理行動をそこまでとらずとも、コロナが収束さえすれば自然と価値が上がる可能性があるのではないでしょうか。

その上でブラックストーンが既に保有しているホテルとの共同仕入れやオペレーションシステムの改善、グループ間での優待等をうまく使えばシナジーが働き更に価値がアップする可能性があります。

ブラックストーングループの基本投資回収行動

ホテルを買収したブラックストーングループは実際どのように収益を出していくつもりなのでしょうか。勝手に妄想したいと思います。

ポートフォリオ単位でがっつり購入後、取捨選択して高く転売

私の一方的なイメージですが、ブラックストーングループはポートフォリオ単位で物件を購入し、その後不要なものはすぐ転売します。その上で残った優良資産に更に磨きを掛けて高値で売却するというのが非常に得意であると考えています

したがって比較的小規模のホテルについてはマーケケットが戻ってくればバラで売るかもしれません。

その上で都ホテル京都八条、ホテル近鉄ユニバーサル・シティ、都ホテル博多と規模は小さいですが客単価が取れる神戸北野ホテルあたりは少し長めに保有し手を加えて価値を高めていくのかなと勝手に妄想しています。価値が高まった段階で売却するとったところでしょうか。

ただ、このような行動がとれるかどうかは近鉄グループとの売却の際の取り決めにもよりますのでそこまで自由なことはできないかもしれません。特に今回はオペレーターとして近鉄グループが残るので、自由度は低い可能性があります。ただ、ブラックストーンの交渉能力を考えるとここも大した問題はないのではと勘繰ります笑。

誰も手を出さないときにリスクを取った人が報われる。ブラックストーンのホテル投資は報われるのか?

ブラックストーングループによる近鉄グループホテル買収はどうなるか

私の試算は全くあてになりませんが、やはり環境が悪いところにリスクを取った人が一番報われるのが投資の世界です。今回のブラックストーンの近鉄GHDホテル買収はおそらくそれに当てはまるでしょう。

もちろんコロナの収束はだれも予測できないですし、ホテル業界が元の世界に戻ることは無いかもしれません。そこはリスクの範疇ですが、ブラックストーンからするとこの投資規模であれば十分とれるリスクの範囲内ということなのだと思っています。

この投資の行く末も楽しみに野次馬で見ていきたいと思います。

【追記】
2021.4.12付日経新聞記事の「中国人投資家、苦境の旅館に食指 2月の相談2倍も」という記事を見て考察記事を書きました。もしご興味があればご覧ください↓
中国人投資家が注目するコロナ禍での旅館・ホテル投資を考察

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