不動産ファンドはどのような職種があるのか、この業界への転職に興味があればを知っておく必要があります。一口に不動産ファンドといっても中で働いている人は様々な業務に携わっています。どのような職種が実際にあるのか解説していきます。
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不動産ファンドの仕事内容
不動産ファンドのビジネスは、お客様(ほとんどの場合は機関投資家)から資金をお預かりし、不動産へ投資を行いその預かった資金を運用するというビジネスになります。そのビジネスを回していくためには様々な業務があります。
一口に不動産ファンドといっても業務は多岐にわたる
不動産ファンド業務は非常に多岐にわたり、様々な業務があります。外資系の不動産ファンドはある程度の規模があるところは職種と担当する業務内容を明確に分けています。ざっと挙げると以下の通りになります:
不動産ファンド各種業務
- アクイジション(物件取得)
- アセットマネジメント
- ファンドマネージャー(ポートフォリオマネージャー)
- IR・ファンドレイジング
- ミドル・バックオフィス(ファンド組成、ファンド会計、コンプライアンスなど)
外資系不動産ファンドでも規模が余り大きくないと業務がオーバーラップします。日系だとそれこそ余り担当を切り分けずに何でもやらなければならないところが多い印象です。それはそれで経験を積めるのでいいとは思います。
アクイジション(物件取得)
不動産ファンドの花形ともいわれる業務です。ファンドのクライテリアに合う不動産物件を探し出し取得するまでのプロセスを全て担当します。
具体的には仲介業者や信託銀行、売り主候補に直接物件買取案件の発掘を行います。入札に参加する場合もあれば、腕のよいアクイジション担当であれば相対取引を発掘します。
開示された情報をもとにどのようなプランで運用するかを考え、そのキャッシュフローを引いていくというアンダーライティング業務を行います。
そのプランではじき出されたキャッシュフローを基にいくらで購入するのかという分析(キャッシュフローモデリング)および評価(バリュエーション)を行います。
企業のバリュエーションほど複雑怪奇でない場合が多いですが、企業評価にはない項目があったりして作業自体は大変です。特に若手で投資銀行から不動産ファンドに転職する場合はある程度作業の親和性があったりします。
その物件を購入する決議は投資委員会(Investment Committee、ICと呼ばれます)で承認が必要となるためICメモ(時に100ページを超える文書)を書きあげます。
そしてその物件を購入する承認を得るべく投資委員会でプレゼンテーションを行います。外資系であれば投資委員会のメンバーは海外のエライ人たちになるので、通常は英語で行われます。
ICメモの内容はもちろん会社によってさまざまですが、一般的に要旨(エグゼクティブサマリー)、物件概要、投資リターン見通し、ビジネスプランの内容、マーケットレポート、リスク分析といったところでしょうか。
また会社によっては、アクイジション担当が投資にかかる融資(レバレッジ)のアレンジを行います。
融資契約は多くの交渉ポイント(特に借り手の義務やデフォルト条項)があり、取得業務をこなしながら融資契約も弁護士と協力しながら作り上げていくというのは非常に大変です。
アクイジションがファンドの収益を決定づける一番重要な部分と言っても過言ではありません。うまくいい物件を安く仕入れることができればリターンを上げるチャンスは各段にあがります。逆にとんでも物件をつかんでしまうとアセットマネジメントをいくら頑張っても損切りの可能性が高くなります。もちろん実際の投資は通常担当者個人で決めるのではなく投資委員会という会議体で決まりますので一定のフィルターにはなります。
かなり業務が多岐にわたる為、めちゃくちゃハードですが、その分不動産投資のイロハを一番学べる業務であると言えます。
必要な能力は若手と中堅で違ってきます。少し投資銀行業務と似ていますが、若手はとにかくエクセルで手を動かしてキャッシュフロー計算とバリュエーションができる人、投資委員会用の資料(ICメモ)を作り上げることができる人が重宝されるでしょう。
中堅はやはりいい投資案件を自ら発掘(ソーシングと呼ばれます)し、投資実行する為に売り主との交渉をしっかり行うことが求められることになります。
通常規模がある程度大きくなってくると入札案件がほとんどになりますが、相対で案件を引っ張ってこれる特異な人は当然重宝されます。
アセットマネジメント
広義のアセットマネジメントとはその名の通り不動産に限らず資産を預かって運用するというファンド業務そのものを指します。
アセットマネジメント会社とは運用会社と呼ばれるのはこの広義の方です。日本語では期中管理と訳される場合があります。
不動産ファンドの中のアセットマネジメント業務というのはアクイジションが仕入れてきたファンドの物件たちを、プランに沿って価値を最大化し、最後は高い値段で売却することを責務とします。
通常は投資当初にビジネスプランといった投資後どのように不動産に手を加えてどのように売却するかの計画を立てます。基本的にはそのビジネスプランに沿った管理を行うことになりますが、当然投資後全て思った通りにいくわけがありません。
どのように軌道修正を行っていくか、もしくはよりより手法があればどのようにそれを実行していくかを考え実行していきます。
修繕やリノベーションの計画や、賃貸活動を行う時はどれくらいの賃料設定にするかとか、売却(よくディスポジションと呼ばれます)の際はどのようにして売却額を最大化するかなど、ファンドの実際のリターンを決める非常に重要な職種です。
物件一つ一つの把握しながらプロパティマネージャーに指示を行い物件を管理していきます。
アセットマネジメントとプロパティマネジメントの違いが結構分かりにくいのですが、アセットマネージャーがファンド全体の物件を見ながら物件ごとにプロパティマネージャーを選定します(一括で依頼するときもある)。プロパティマネージャーは物件単位での賃貸管理や修繕等の発注管理等やビル管理会社のコントロール(ビルマネジメント、BMといいます)を行います。
また、出口での売却アレンジも業務に含まれます。基本は仲介や信託銀行を通して入札を経て売却になることが多いですが、どのような属性のところにアプローチをして売却するかについてはアドバイザーと一緒に考えていきます。
上記の通り投資回収を行うために一番いい形で売却するのがアセットマネージャーの一番の責務です。
ファンドマネージャー(ポートフォリオマネージャー)
ファンドマネージャーは文字通りファンドを管理する人でポートフォリオマネージャーとも呼ばれています。
ファンド全体の戦略を立て、どのように不動産ポートフォリオを作り上げてリターンを上げていくかを考え実践していきます。イメージとしてはファンドのCEO(もしくはファンドの顔)の様な感じです。アクイジションと並んで花形職種であると海外ではみなされています。
投資を考えるだけでなく、お金を預けてくれる投資家とのコミュニケーションをばっちりとる必要があるため投資経験だけでなく、コミュニケーション能力など、かなりの総合力を求められる職種です。
外資系だとファンドマネージャーは海外にいたりするのでこの手のポジション自体余り日本国内にはないような気がします。
日本に特化した外資系不動産ファンドであればポジションは存在するかと思います。日系企業では明確なファンドマネージャーを置いているのは余り多くない印象です。
IR、ファンドレイジング(キャピタルマーケット)
アクイジション、アセットマネジメントがファンドの運用であればIR・ファンドレイジングはその運用するお金を集めてくる不可欠な業務です。
ファンドビジネスの両輪の片方といっていいでしょう。不動産ファンドの運用会社は集めた資金の金額の一定率を掛けた金額を報酬として受領するので資金が集まらなければ収益を上げることもできないですし、その前に運用ができません。
基本的には国内外の機関投資家を想定しています。上場リートのIRはまた責務が少し変わってくるかと思います。
どの投資家がどのようなファンドに興味があるのかを把握した上で投資家に対してしっかりプレゼンテーションを行いファンドの魅力を伝える必要があります。
実際の投資実務経験があればより有利ですが、経験がなくても深い知見が必要になります。
従って、業務内容としてはまず販売するファンドに関するプレゼン資料を作成し、投資家にプレゼンします。
定例報告はファンドマネージャーが作成することが多いですが、IR担当が作成する場合もあります。その定例報告もファンドマネージャーが行う場合とIR担当が行う場合があります。
ファンドのプレゼン資料としては運用の哲学、プラットフォームの強固さやトラックレコード、投資事例や諸条件等が記載されます。
新規のファンドであればコンセプトや似たような投資の経験、パフォーマンス等を記載します。
資金を集める対象がファンドではなく、個別案件の場合はその投資案件に関する不動産詳細の知識が求められることになるので、かなり難しい業務になります。
商品としてのファンドの魅力を伝えるのと、個別案件の魅力を伝えるのではまた提案先も変わりますし、プレゼンのポイントも大きく異なっていきますので両方こなすことができて且つ語学力があるとマーケットでは非常に重宝されます。
従って、営業的要素が強い職種になるので高いコミュニケーション能力が必要になります。また、投資家の要求をファンド運用者に正しく伝え、ある意味投資家にウケるファンドに作り上げていく重要な役割を負います。
会社によりますが大きな投資家を捕まえて出資をとりつけることができればかなりのボーナスが支払われます。残念ながら日系では余りないことですね。同じく欧州系のファンドもそこまでインセンティブボーナスはないみたいです。米系であれば場合によってはアクイジションよりも稼げることもあるそうです。
ミドル・バックオフィス(ファンド組成、ファンド会計、コンプライアンスなど)
不動産ファンドを設立、運営する為には必要不可欠な業務です。投資家によってファンドが設立される国やストラクチャーが異なってくる為、非常に高度な知見が求められます。
また、年々厳しくなってきているコンプライアンスは万が一違反してしまうとファンド運営の命取りになります。国をまたぐとその複雑さは増し、非常に責任重大な部分になります。
ワークライフバランス
不動産ファンド業務は正直どれもワークライフバランスは余りよくないというのが正直なところです。
その中でもアクイジションは特に激務でしょう。当然案件フロー次第ではあるものの、物件取得の為、案件をソーシング(今の市況だと不動産買わせてくださいという営業)とそれに伴う接待等、アンダーライティング業務や入札準備、投資委員会メモ作成準備、ファンドによっては融資もアクイジションが作業するなど業務が多岐にわたります。
イメージとしては投資銀行(M&Aアドバイザリー)よりは少しマシという激務さです。
アセットマネージャーは担当している物件の規模によりますが、毎日差し迫ったものはそれほど多くないので相対的にワークライフバランスはマシかもしれません。
ファンドマネージャーやファンドレイジング・IRはファンドの種類とお客さん(投資家)次第です。めちゃくちゃ細かかったり、接待が必要だった場合は結構忙しいですが、例えばそこまでアクティブな運用が求められないコアファンドだったりするときは少し落ち着いているかもしれません。
投資銀行や市場のバックオフィスは比較的ワークライフバランスがあるイメージですが、不動産ファンドのバックオフィスは結構忙しいです。
ファンドを設立する際はその設計によりますが海外が絡んだりすると会計、法務のチェック項目が多国間にわたりかなりハードです。また、規制上コンプライアンスは年々めちゃくちゃ厳しくなっており、これも例えばビークルに欧州が絡んだりすると一気に大変になります。
不動産ファンドの各職種で給与水準に違いはあるか?
ぶっちゃけていうと、不動産ファンド業務でも職種により給与格差があります。一般的に一番給与が高いといわれているのがアクイジションです。
アセットマネージャーも例えば物件が高く売れてファンドに収益が上がった場合等にはボーナスが増える等、インセンティブがありますが、一般的にはアクイジションより水準は少し低めと言われています。
ファンドマネージャーは自身が運用しているファンドのパフォーマンスによってボーナスが増える等のインセンティブがあります。
IR・ファンドレイジングは中々資金集めが難しいファンドの資金を投資家から集めることができればアクイジションよりも高いボーナスを得られます。
ただし、これはファンド運用会社によって報酬体系が異なっており、一般的に米系はインセンティブが高く、欧州系はそこまでインセンティブが実績とリンクしないといわれています。
日系大手は多分余りボーナスは変わらないでしょう。独立系であれば外資系と同じようなインセンティブプランがある可能性があります。
不動産ファンド業務のうちどの職種を目指すか?最初が肝心です
特に行きたい先が決まってなければアクイジションを目指すべき
特にやってみたい業務が決まっていなければ、まずはアクイジションを目指すべきでしょう。
アクイジションを目指すべき理由
- 年次が上になればなるほど職種間の異動が難しくなる中で、アクイジションが一番難易度が高いといわれている
- アクイジションから他の職種への移ることは比較的容易だが、逆は難しい
- 一番つらいかもしれないが、その分給与・経験でのリターンがある
理由は上記の通りです。若ければ若いほどアクイジションにチャレンジすべきだと考えます。
年次が上になればなるほど職種間の異動が難しくなる中で、アクイジションが一番難易度が高いといわれている
年齢が上がってくると中々クラスチェンジでできなくなります。その中で一番難易度が高く競争が激しいアクイジションの経験をしていくことは将来へ幅がぐっと広がります。
アクイジションから他の職種への移ることは比較的容易だが、逆は難しい
上記と関連しますが、アクイジションは不動産ファンド業務の根幹です。そこでしっかりと経験を積めば他の職種へクラスチェンジすることは比較的容易にできます。
その逆は正直厳しくて例えば今までアセットマネジメント一筋だった方がアクイジションに移れるかというと少なくとも転職マーケットでは難しいです。頑張って社内で異動する道を探した方が可能性があります。
一番つらいかもしれないが、その分給与・経験でのリターンがある
アクイジションは上記の通りワークライフバランスは余りよくなく、非常にハードな職種です。その一方でうまくいけば一番金銭面でも報われます。
リーマンショック前ほどではありませんが、物件取得に成功すればそれがボーナスに上乗せされたりします。なによりも何十億、何百億という多額なお金を動かして不動産に投資をすることは中々他の業界には味わえないものがあります。
ある程度経験を積んだのちにファンドマネージャー、ファンドレイズの職種も有望
アクイジション(もしくはアセットマネジメント)の経験を積んだ上で、ファンド全体の運営を行うファンドマネージャーに職種を変えることは非常に有効だと考えます。
また、実際の投資をおこなった経験のある人間はファンドレイズでも大きく強みを発揮します。
特に投資について深堀りしてプレゼンができるとそれは大きく活きます。
会社を選べば非常に大きなボーナスも望める職種なのでチャレンジする価値はあるでしょう。
加えて語学力があれば現在非常に重宝される人材なのでしばらくは食べるのに困りません。不動産も英語もできる人はマーケットに中々おらず、今は大きな強みになっており、優遇されます。
既に不動産知識のある方は英語を勉強すれば鬼に金棒です。
外資系不動産ファンドに転職するには
外資系不動産ファンドに転職するには経験が必要な場合がほとんどなので、未経験での転職は難しいでしょう。
できれば日系不動産で経験を積んで転職するというのが現実的であると考えます。
よりジュニアであれば投資銀行系の業務経験があれば比較的容易にうつれます。
何故なら物件取得にかかる業務(たとえばキャッシュフロー計算やバリュエーション等)は投資銀行業務と重複する部分が多いからです。
日系、もしくは外資系の不動産ファンド転職の為には転職エージェントのサービスを活用するのが現実的です。
いくつか私が体験したサービスを記事にしていますのでよろしけれご参照ください。
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不動産ファンドはかなりエキサイティングな業界
不動産とひとことで言うとかなり古い業界のイメージがあったり、若干ダーク(?)な印象があるかもしれません。それはある意味当たってます。ただ、不動産ファンドという不動産と金融を合わせた業界はそのデメリットを上回るエキサイティングな業界でもあると思います。興味があればぜひ深堀りしていただき、業界の門をたたいてみてはいかがでしょうか?
外資系不動産ファンドについて↓に更に解説していますのでよろしければ併せてご参照ください。
外資系不動産ファンドとは?給与水準は?【詳しく解説します】
不動産ファンドについてもう少し知識を深めたいときにおすすめの本
下記の本が不動産ファンドについて、かなり網羅的にかつ詳細の事項が書いてあります。一通り理解できれば不動産ファンドの職種についても概ね理解することができ、脱初心者となると思いますのでぜひ読んでみてください。