2021年3月31日付のプレスリリースでオンキョー(ONKYO、現オンキョーホームエンターテイメント株式会社)が上場廃止になる見込みと報じました。
個人的には懐かしい名AV機器メーカーとの印象ですが、ここまで苦戦していたとは知りませんでした。
今後どのような道を歩んでいくのか考察してみました。先行きはやはり厳しく、おそらくスポンサー無しでの存続は非常に厳しいと思います。
Contents
オンキョー(ONKYO)とは
オンキョー(ONKYO)とは1946年現パナソニックの元工場長が独立して設立されたオーディオ機器メーカーです。一時期は東芝傘下にいましたが現在では独立しています。また、パイオニアのホームAV事業を引き継いでいます。
オーディオ機器の質は高く、プロから個人愛好家まで根強いファンがいるブランドを展開しています。
オンキョー(ONKYO)は2021年3月31日上場廃止基準抵触見込みのプレスリリース
2021年3月31日付のプレスリリースでオンキョーは上場廃止基準に抵触し、上場廃止になる見込みであることを発表しました。
https://onkyo.com/ir/ir_news/date/2020/20210331_joujouhaisi.pdf
オンキョーは2013年から経常赤字が継続
オンキョーは2013年から経常赤字が継続しており、直近の有価証券を確認しても黒字スレスレの年はありましたがほとんどの期間で赤字状態でした。
その様な中でコロナ発生により販売がより抑制され赤字が拡大し、債務超過に陥っています。
債務超過解消に向けてまずAV事業の事業譲渡が決まりましたが結局とん挫しました(後述)。
直近で各取引先の債務をデットエクイティスワップという形で株式化し、債務を削減し、純資産を増やしました。
また、新規スポンサーとしてEVO FUNDを引受先とした新株予約権を12号まで発行し、10号までは行使されましたが、11号をEVO FUNDが行使しないことを決定したこと、および米国の代理店の売上債権の回収見込みがないことから追加で多額の引当金を計上したことで2021年3月期の債務超過が決定的となり、上場廃止基準に抵触しました。
今後オンキョー(ONKYO)はどうなるのか
オンキョーは既に2020年3月期において債務超過となっており、2021年3月31日までの猶予期間がありましたが、猶予期間までに債務超過を解消することができなかったため上場廃止になる予定です。
監理銘柄となり2021年7月に上場廃止に
オンキョーは現在監理銘柄に指定されています。2021年6月の有価証券報告で債務超過が確定した後、整理銘柄指定され約1か月後の2021年7月に上場廃止となる見込みです。
上場廃止が撤回される為にはEVO FUNDが支援を再開するか、他のスポンサーが手を挙げて増資引き受けを行えばあるいはウルトラCで復活という可能性も一応ゼロではありません。
もしくは回収可能として引当していた営業債権が全て戻ってくるという奇跡が起きてももしかしたら債務超過解消になるかもしれません。これは可能性ほぼゼロだと思いますが。
上場廃止となると取引所で株式の売買が不可能になります。
上場廃止=倒産で株式が紙くずとなるわけでは必ずしもありません。
ただし、株式の流動性はほぼなくなりますしそもそも債務超過の時点で株式価値はゼロということになります。
上場廃止後株式を保有していた場合、売却しようとするのは会社に買い取ってもらったり、その後のM&A等で買い取ってもらう可能性はありますが、投資家間で取引所で行っていたような取引は不可能になります。
なにより上場廃止後もオンキョーは倒産の危機が続きます。
債務超過状態は上場維持以前に企業存続の危機
債務超過状態とは、支払わなければいけない債務を、資産を全て売却したとしても賄いきれない状態を言います。
一時的な債務超過でも、事業である程度の黒字がでていればそのフローで賄える可能性がありますが、残念ながらオンキョーは2013年から赤字が常態化しており、非常に厳しい状況と言わざるを得ません。
債務超過になると、まず銀行が融資をしなくなります。続いて仕入れ先や取引先が代金未払いを恐れて取引をしなくなります。そうすると売り上げを立てる見込みがあったとしても、商売ができない状態となり、事業が止まってしまいます。
また、オンキョーのような高品質製品を絶えず創り出すには、研究開発費も必須になりますが、資金が枯渇すれば競争力のある製品を創ることができなくなり、ブランド価値が毀損してやがて事業継続に疑義が出てきます。
従って、オンキョーは上場廃止以前に事業継続が危ぶまれる非常に厳しい状態です。
現実的にはスポンサーを探し当てることが次の打つ手
上場廃止前にせよ、後にせよ、オンキョーは事業継続の為には資金提供者となるスポンサーを探すことが急務となります。
なぜなら、上記の通りそもそも債務超過の状態では銀行も融資ができず、取引先も製品やサービスを納入することができずに事業の流れが完全にストップしてしまうからです。
すでに既存取引先はデットエクイティスワップ等の対応をしてくれているのは大きなプラスですが、ここからさらに売り上げを上げるには営業債務が発生しますので、信用供与してくれる先がいないとそもそも利益を上げることができないからです。
仮に債務超過で銀行が融資してくれたとしてもそれはあくまでデット調達なので純資産は増えません。問題の先送りになります。
数字を見る限りは自助努力ではかなり厳しい状況なので、現実的には①同業者もしくは川上、川下の事業関係者、②新規参入を検討する異業種、③投資ファンド等のフィナンシャルバイヤーいずれかからの支援が事業継続には必要になります。
市場的にどれほど魅力的かわからないので②はちょっと予想できませんが、ブランド力と事業が再浮上する可能性があれば同業者もしくはフィナンシャルバイヤーからの支援がなされる可能性はありそうです。
オンキョー(ONKYO)の再生可能性を探る
飽くまで私見ですが、オンキョー(ONKYO)が存続するにはスポンサーによる支援が不可避であると考えます。ただ、直近のスポンサーであったEVO FUNDはおそらくですが実質手を引いています。このような状況で果たしてスポンサーが現れるのか考察します。既にオンキョーはスポンサー探しを行っているかもしれません。
スポンサー支援の絶対条件として、事業再生見込みがあること
オンキョーのバランスシートを見ても特に大きく換価性のある資産があるようには見えません。したがってスポンサーが支援をする絶対条件として、バランスシートには載らない収益を上げる無形資産(ブランド、ノウハウ)が存在することになります。これは以前書いたF-Power(エフパワー)にも同様のことが言えます。
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現状、全ての事業が赤字の為それが見えづらいですが、果たして現在のオンキョーにそれが残されているのでしょうか?
オンキョー各事業の再浮上可能性は?
オンキョーは大きく分けて3事業を展開しています:
オンキョーの主力3事業
- AV事業:オーディオ機器の製造販売
- デジタルライフ事業:ワイヤレスイヤホン等製造販売、輸入販売、AI,ネットコンテンツ配信
- OEM事業:スピーカーや自動車オーディオ等の製造受託
直近9ヵ月では全ての事業で赤字
直近9ヵ月(※年間ではありません)事業収支は以下の通り全て赤字です。
AV事業 | デジタルライフ事業 | OEM事業 | ||||
2019年12月 | 2020年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | |
売上 | 10,079 | 2,513 | 3,231 | 1,168 | 5,263 | 2,852 |
損益 | △ 734 | △ 1,251 | △ 644 | △ 478 | △ 99 | △ 504 |
数字だけでみればどれも絶望的です。特に売上がAV事業で4分の1、その他の事業でも半分の水準まで落ち込んでいます。
オンキョー各事業の展望は
ただ、当然オンキョーの現状全く手を打っていないわけではありません。
まずAV事業については米国のVOXXグループと代理店契約を締結しています。従前の米国代理店は深刻な業績悪化により売上を回収できずに2020年に多額の引当金を計上したことが債務超過の要因につながりました。
代理店をより信用力のある先に変更したことにより、まずは安定した供給ができれば販売増を見込める体制になりました。
実際、リモートワークの推進によりオーディオ機器の需要は伸びていることもあり、今まで抑えざるを得なかった販売活動をより積極的に行うことができます。代理店の整理ができたということは売上債権回収の”守り”からより”攻め”に転じることができるという理解です。
2019年にデノン(DENON)やマランツを擁するD&MホールディングスにAV事業を譲渡する方針でしたがこれはとん挫しています。その上で自力で再生を図るつもりでいることからある程度の勝算があるのでしょう。
デジタルライフ事業については代理店として販売しているklipsch社のワイヤレスイヤホン販売が好調の様です。その他コラボレーションによる自社のワイヤレスイヤホン販売やコンテンツ配信で巻き返しを図ります。
今後売上が回復するかどうかがカギになりますが、より先端製品へのニーズが高まれば再生は不可能ではないでしょう。
デジタルライフ事業での明るい数字としては高付加価値に集中することにより売上が半分以下になりながらも収支は改善している点です。これを突き詰めて売上が回復すれば大きく黒字転換することができるかもしれません。
OEM事業については対消費者に対してはブランド価値の向上にはなりませんが、納入先からの信頼さえ維持できていれば受注が回復さえすれば黒字転換がしやすい事業領域かと思います。
オンキョー単体で取り組めることは限られていますが自動車販売が伸びれば売り上げも回復していくでしょう。
上記の様な見立てに賛同して資金援助してくれるスポンサーがいるかどうかがカギ
正直いうと上記の見通しはかなり甘いものであり、実際の再生過程はより厳しいものになるでしょう。
数年前からの業績でもわかる通り自助努力では限界に近いというのが現実だと思います。
従って、スポンサーが出てくる要件としては上記にある程度賛同しつつもスポンサー自身がプラスアルファで付加価値を付けることができる場合か、全くの方向転換をしてもオンキョーの企業価値を上げる自信があるかのどちらかかと考えます。
付加価値としては同業であればハイレベルなもので技術統合やブランド間のコラボ等が考えつきます。
また、コストカットでは本社機能の統合や共同仕入れ等により仕入れコストを低減することも一例です。もしくは投資ファンドなどがスポンサーになれば同じ投資先でのビジネスマッチングなども考えられます。
方向転換としては私個人は全く思いつきませんが、例えば投資ファンドであればAV事業を結局うまい形で事業譲渡を行ったり、デジタルライフ事業を既存の投資先会社と統合させたりすることでしょうか。
EVO FUNDはおそらく実質撤退
新株予約権を10号まで行使し大株主になっていたEVO FUNDですが、11号の新株予約権を行使しないことを決定し、オンキョーは債務超過を解消できなくなることが確定しました。
これはスポンサーとしては撤退を決めているとみていいかと思います。穿った見方をすると一旦監理ポストに入ったところで株価がより底辺になり、増資引受を行ったり、上場廃止後によりよい条件で増資を引き受けたりすることはできるかもしれませんが、投資効率性を考えると何とも言えません。
一部競合先であるD&Mホールディングスを参考に
AV事業での競合先を思われるD&Mホールディングスが、オンキョー再生を探る上でひとつのメルクマールになるかもしれません(明確に競合先と異なる場合は、機器に詳しい方がいらっしゃればご指摘ください)。
D&Mホールディングスは旧日本コロムビアのAV機器部門であるデノン(DENON)と日本マランツのブランドを擁していた企業で、2003年は新生銀行を買収した投資ファンドとして有名なリップルウッド(現RHJインターナショナル)が保有していました。
その後、リップルウッドはD&Mホールディングスを同業の米国投資ファンドであるベインキャピタルに売却しました。
ベインキャピタルも2017年事業会社である米国のSound Unite LLCへ売却し現在D&MホールディングスはSound Unite LLCの傘下で事業を継続しています。
D&Mホールディングスは傘下にデノンとマランツという一部競合するブランドを展開しているため、2019年、同じ様な形でオンキョーもAV事業を譲渡することが一旦決まりましたが結局立ち消えになってしまいました。これが実現していればもしかしたら今見えている景色も違っていたかもしれません。
このAV事業譲渡の話が再度復活する可能性はゼロではありませんが、プレスリリースを見る限りはオンキョーは一旦自力でAV事業を立て直すことになりそうです。
D&Mホールディングスは大幅減益も黒字の模様
D&Mホールディングスは既に未上場企業となっていますので、詳しい業績は分かりませんが、決算公告によると2020年3月は売上303億、営業利益16億、純利益11億となっています。
連結ベースでないのと、2021年3月は業績が悪化している可能性はあるものの、純資産も111億あり財務内容はオンキョーと比較するとだいぶ安心感があります。
https://catr.jp/settlements/beba1/184357
オンキョーはシャープ他にAV機器事業譲渡合意も苦難は続く【2021年5月1日追記】
日経記事他でオンキョー(ONKYO)がシャープとヴォックスに主力事業であるAV機器事業を譲渡する交渉を行っていることが報道されました。オンキョーは債務超過を解消できずに7月には上場廃止となる予定ですが結局伝統事業を売却する様です。。。
オンキョーのAV機器事業譲渡先はシャープとヴォックス社(VOXX)
日経記事などでオンキョーが主力事業であるホームAV事業をシャープとヴォックス社(VOXX)事業譲渡する方向で交渉中という報道がでました。
プレスリリースも出ています。5月20日までに詳細を詰め正式契約を締結し、6月25日の株主総会に諮る予定ということです。
合意には遅れがでているとの報道がありましたが、どうやらシャープとヴォックス社で新会社を設立し、そこにAV機器事業を33億円で譲渡することになるようです。
オンキョーはスポンサー模索になるかと予想したが、結局事業譲渡を決定
ホームAV事業は2年ほど前、競合でもあったD&Mホールディングスに事業譲渡する予定でしたが、直前で譲渡中止となり、自力再生の道を模索していました。
コロナによる米国販売代理店の不振で大きな商事債権が焦げ付きとなり、債務超過の大きな一因となっていました。
このような中でオンキョーは米国販売代理店をヴォックス社(VOXX)に変更し、これで自力再生に向けて反転攻勢にでるのかと思っておりました。
個人的には3事業をそれぞれ再生するにあたりスポンサー支援を模索するのだろうと予想しておりましたが、若干それが外れてしまった形になります。ただ、売却先がシャープと販売代理先のヴォックス社といういう意味では一番実現性が高い事業譲渡案件なんだろうなと感じました。
記事には”ONKYO”ブランドを継続する方針とありますが、赤字とは言えブランド名を考えると妥当な判断かと思いまうす。素人の私でもシャープかONKYOどちらのAV機器を購入するかと言えばONKYOを選びます。
また、ヴォックス社もアンプ等のオーディオ機器には定評がありますが、ONKYOとはまた少し領域が違う気がします。既に名前が通っているONKYOをあえて変更して事業を行う必要はないのでしょう。
オンキョー(Onkyo)は事業譲渡後も引き続き債務弁済は困難、スポンサーが必要
オンキョーのAV事業譲渡により、経営危機は去ったのでしょうか?
個人的にはそう思いません。
引き続き厳しい状態が続き、事業譲渡後もスポンサーによる資本、そして事業そのものの支援がオンキョーが再生するには不可欠であると考えます。
オンキョーAV機器事業を33億円での事業譲渡により債務超過の解消はぎりぎりクリア?
事業譲渡が成立した後、オンキョーはどうなるのでしょうか?
大前提として、ホームAV事業は少なくとも債務超過を解消させる程度の価格で売却する必要があります。
プレスリリースでは2319百万円、約23億円程度の不足額ということなので、譲渡額はこれを超える金額でなければ行うインセンティブは低いでしょう。
5月26日の報道では事業譲渡額は33億円とあります。
譲渡額だけでみれば債務超過解消という最低限のハードルはクリアします。
オンキョーは事業譲渡して債務超過が解消したとしても、苦難は続くため、スポンサー支援は不可欠
記事によればこれだけでは債務弁済は困難とあります。
事業譲渡額からM&Aのアドバイザリー手数料や法務コストなどを差し引くと実際の手取り額は33億円をかなり下回りそうです。
また、簿価によっては税務コストも発生します。
また、譲渡後のオンキョーに事業イメージとしてはAV事業を除いたデジタルライフ事業とOEM事業で収益回復を目指していくことになります。
デジタルライフ、OEM事業をコロナ前の数字で見ても9ヵ月で80億円程度の売上です。しかも両事業とも赤字は継続しています。
債務弁済は困難というのは事業継続に必要な資金と、赤字解消の為に残る事業もコスト削減や構造改革費用がかさんでしまうので、33億円では足りないという意味でしょう。
年間でも100億円程度の事業会社に縮小することになります。もはや規模を狙うことは難しいですが、収益がついてくれば持続可能な企業に返り咲くこともまだあり得るでしょう。
AV事業 | デジタルライフ事業 | OEM事業 | ||||
2019年12月 | 2020年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | |
売上 | 10,079 | 2,513 | 3,231 | 1,168 | 5,263 | 2,852 |
損益 | △ 734 | △ 1,251 | △ 644 | △ 478 | △ 99 | △ 504 |
個人的な考えでは事業譲渡の価格がよほど多額でなければ引き続きスポンサーの支援は模索することになるのではないかと思います。
→今回の報道で事業譲渡後のオンキョーが復活するにはスポンサー支援が不可避であると感じました。
なぜならばデジタルライフにせよ、OEM事業にせよある程度の設備投資が必要だからです。現在のオンキョーは資金調達能力が弱く、バックアップが必要だと考えます。
企業体としては少し悲しい結果ですが、ブランドが活きるという意味では仕方のない選択なのかもしれません。
学生のころはお小遣いをはたいて買ったMDコンポ、今でも実家に捨てずに持っています。決して高くはありませんでしたが、素晴らしい音で愛用していました。
願わくばブランドが消滅することなく、何らかの形で残り、企業としても再浮上してほしいところです。
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