2021年3月24日に新電力大手の㈱F-Power(エフパワー)が会社更生申立をしました。
新たな電力販売業者として一時は業界1位の時期にいましたが直近では10位程度に低迷。今後はどうなっていくのでしょうか?原因と今後について考察していきたいと思います。
なお、はじめに解説しておくと、エフパワーの既存のお客様に対して今回の会社更生申立で直ちに電力の供給がなくなることはありません。今後法的プロセスに沿った形で再生が図られます。
ただし再生の形によっては今後電力の契約内容に変更が生じる可能性があります。
Contents
F-Powerとは
株式会社F-Power(エフパワー)とは、実質的に2009年に事業を開始した新電力会社です。
新電力会社とは2016年の電力自由化を皮切りに、ざっくりいってしまうとこれまで東京電力や関西電力等大手電力会社が発電から小売りまでを行っていたところ、一般家庭への電気の小売りを自由化したところで多くの企業が新規参入した業界です。
大きいところでは東京ガスなどのエネルギー会社や、KDDI等の通信インフラ会社も参入していますが、より独立色の強い新興企業も多数存在しています。
基本的には電気を仕入れて一般家庭等のエンドユーザーに電気を供給するビジネスモデルで、魅力的な価格ラインアップをそろえてエンドユーザーの獲得を狙います。
F-Powerはその中でも老舗に入る部類で2018年には業界第1位の位置にいる最大手新電力会社の1社です。ただ、近年ではシェアを奪われ業界10位に位置しているようです。
ウィキペディアのページを載せておきます↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/F-Power
株主はゴールドマンサックスなど金融機関、ファンド、そして同業を含む一般事業者
FACTA記事の引用になりますが、F-Powerへはゴールドマンサックスや電力会社などが出資をしていますが、主要の株主はIDIインフラストラクチャーズというインフラファンドです。
ゴールドマンサックスは純投資だと思います。今回の投資は失敗となってしまいそうです。
IDIインフラファンドはF-Powerとビジネス上の結びつきが非常に強いファンドです。
IDIインフラストラクチャーズとは
IDIインフラストラクチャーズは、興銀出身のS氏が実質的に立ち上げたインフラ投資ファンドです。3号ファンドまであり、この3号ファンドを通じてF-Powerに出資をしていました。
ファンドへの出資者がハウスメーカーや大手証券会社、リース会社などであったとFACTAの記事に掲載されていました。
また、近年はこのS氏がF-Powerの代表取締役に就任しており経営にも携わっていたはずですが、申立書にある代表者が違う人でした。既に退任済みでしょうか。
IDIインフラストラクチャーズの代表者も変わっています。FACTAを読むとどうやら内紛があったように見えますが真相は不明です。
F-Power倒産の直接的な要因は電力スポット価格の高騰も過去安売りで顧客基盤を拡大していたことも遠因では?
F-Powerの経営不振は今回で初めて起こったわけではありません。
2018年にも同じように電気卸売価格の高騰を受け、200億円近い赤字を計上しました。債務超過になる寸前のところで既存株主を中心とした増資を行い債務超過を免れたという経緯があります。
引き続き赤字経営だった様ですが、2021年6月期の決算は久々に黒字が見えてきていた状態だったと報道にあります。
2021年1月に電力スポット価格が異常な高騰をみせる
下記が電力卸売スポット価格の推移です。現在は落ち着いている様ですが、2021年1月に寒さや供給不足等を要因として過去例のない上がり方をしています。
経産省も新電力業界からの要望を受けて支援策を実施していました。
しかし、苦しいのはF-Powerだけでなく他社でも売電事業を停止したり、深刻な状況でした。3月には倒産も出てくるのではないかとささやかれていた中での大型法的整理です。
普通のビジネスで考えて一瞬とは言えこの状況は絶望的です。例えばみかん一個を80円で仕入れて100円で販売しているものが、突然仕入れ値が800円になってしまった状態です。
しかも顧客宛に提供できなかった電力を手当できなかった場合は電力会社が補填をしますが、この場合、F-Powerはこの補填に対するペナルティを電力会社に支払う必要があります。
つまり、みかんの仕入れ値は800円と10倍になったからといってみかん販売を止めることはできず、強制的に売らされた結果(広い意味での)仕入れ先にペナルティを上乗せした支払う必要があるということです。
実際に東京商工リサーチによるとF-Powerの負債総額464億円のうち、約197億円は電力会社に対するこのペナルティの支払い義務という報道です。
これだけを見ていると素人目にはリスクを負った上での薄利多売のビジネスモデルに見えてしまいますがいかがでしょうか。
独占できればある程度ペイするものの、参入者が100社を超える中で価格以外で勝負するのも難しい中、仕入れ値にリスクを負いながらも無理やり売らなければならないというのは私だったら中々トライできない業界です(素人ですのでより妙味がある部分があるのであればぜひ教えてください)。
電力調達が事業継続のキモであるならば事業者としては当然リスクヘッジが必要です。
このような事態に備えてF-Powerもヘッジをできなかったのでしょうか?F-Powerの経営陣には金融業界出身者が多く、こういった勘どころへのアンテナはしっかり張っていたはずです。
ただ、電力調達についてはド素人なので想像でしか語れませんが、ここまで衝撃的な動きだとヘッジは不可能でしょう。
なぜならおそらく電力も他の金融商品と同様、価格の動きが大きくなればヘッジコストは上がっていくので、結局価格はヘッジできたとしてもそのヘッジを維持するコストで大けがをすることになるからです。傷は浅くなるかもしれませんが。。。
過去には安売りで顧客基盤を拡大していたのも響いていたのでは?
F-Powerは一時期新電力会社ではシェア1位の座にありました。1000憶円を超える売り上げもありましたが、当然薄利多売の世界で仕入れ値が高騰すると逆回転が起こります。
近年、むやみな安売りはやめていた様ですが独立系の新電力会社で価格以外の魅力を打ち出すのは至難の業だったのでしょう。
企業体として苦しくもがいていたでろう状況がうかがい知れます。
特にニュースを見る限りでは、直近期が久々の黒字が見えていた中での電力スポット価格高騰による法的整理ということで非常に無念だったと思います。
スポット価格にさらされている状況が変わらない限り同じ問題は発生する
つたない記憶ですが、F-Power(エフパワー)は販売する電力全てを仕入れに頼っていたわけでは無く、一部発電施設を保有していたはずです。
ただ、今回の倒産要因がこの電力スポット価格の急騰であれば、やはり事業全体を賄える規模でなかったのでしょう。
そうなると、法的整理に入ってスポンサー支援を得たとしても将来同じ問題が発生することになります。
F-Power(エフパワー)今後の展開はスポンサーが現れるか次第で変わってくる
現在スポンサーを選定中
スポンサーがF-Powerを支援するかどうかの判断は①上記のリスクを抑えた上でビジネスモデルに再浮上の可能性があるか、と②F-Powerの保有資産に支援するに足る魅力的なものが残されているかに絞られます。
会社更生手続きは民事再生と違い申立時点では原則現経営陣が退いて経営に関与しなくなります。
ただし、一定の要件を満たすことで経営陣が経営関与するDIP型(Debtor in Position)会社更生と呼ばれるものもあります。
文書をみるかぎり保全管理人(弁護士)が選任され、管財人がスポンサー手続きを進める様に見えますが、それが確定したとみるには続報が必要ですね。
スポンサーが出てくるかどうかはこの仕入れであるスポット価格を含めたリスクをカバーできる先が現実的だが・・・
今回の電力卸売価格の高騰はエフパワーだけでなく、他の新電力会社もかなりの苦境にあったはずです。まさにビジネスモデルのリスクが更に顕在化したということだと思います。
現在スポンサー候補が誰なのかは知りませんが、いくつかのパターンが考えられます。
-既存株主を含めた電力会社が垂直統合を狙いスポンサーに
-顧客基盤の統合を狙い競合の新電力会社がスポンサーに
-新電力会社の顧客基盤にシナジーを感じる別業種がスポンサーに
-CFの安定性、もしくは回復を見込んだフィナンシャルバイヤー(投資ファンド等)
上記はほんの一例ですが、このような中でエフパワーのスポンサーになるにはこの電気調達リスクに対処できる先でないと難しいでしょう。
例えば電力供給ができる電力会社がエフパワーの顧客基盤が魅力的だと思えば手を上げるかもしれません。実際、現株主に電力会社が入っているのでその線が本筋な気がします。
もしくは同じように火力もしくは再生エネルギーの発電所を保有している企業や、エネルギー業界に強く関わっている総合商社などもありえなくはないでしょう。
いずれもスポンサーとして入ることでシナジーが発生する見込みがあることが必須です。
純粋なPEやインフラなどの投資ファンドが投資するには特に今回の件でより顕著になったようにキャッシュフローの安定性が低いエフパワーの様な業界に手を出すのは難しいかもしれません。
ただし、エフパワーは子会社を通じて発電施設も保有していたはずなのでそういった保有資産に魅力的なものがあればスポンサー候補として参戦するかもしれません。
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一応、スポンサーが複数いると報道にあるので支援内容のコンペ(もしくは入札)を経て正式決定するのでしょうか。もしくは既に裏で固まっているのか、興味深くウォッチしたいと思います。
プレパッケージ型の会社更生となっていないことが若干気になるが・・・
比較的多い事例として、会社更生申立前に既にスポンサーを見つけ出し、支援内容を固めた上で会社更生を申し立てることもあります(よくプレパッケージ型会社更生と呼ばれます)が、今回はどうやらスポンサー選定と申立は並行して行われた様です。
魅力的な企業(倒産している時点で魅力的かどうかは意見が分かれますが)はスポンサーやその支援内容を倒産前に交渉できるのは企業にとっては有利に働く場合があります。
今回それができなかったのは、中々スポンサー探しに難航しているのか、電力卸売価格の高騰が余りに激しくて事前に交渉する時間が無かったのか、もしくは裏でほぼ固まっているが一応会社更生のプロセスを経るのか、真相はどうなのでしょうか・・・?
F-Power(エフパワー)債権者への支払いは?
事業存続に必要な支払いを除き、会社更生手続きの中で支払額(弁済額)が決定
基本的に会社更生申立前に融資した金銭や、仕入れ等に関する支払いは一旦停止になります。
会社更生申立後、スポンサーが決まればその支援内容のもと、F-Powerがどのような形で再生を目指し、いくら債権者に支払うのかを定めた更生計画を債権者に提出します。
その計画を担保権を持たない一般債権者(一般更生債権)の半分超の賛成で認可となり計画に基づいた支払が実行されます。
スポンサー型の会社更生の場合は債権額大幅カットの一括弁済が一般的だが・・・
スポンサー支援が決まっている場合、会社に対して出資を行いその出資額を主な原資として一括で債権者に支払い、残額があった場合はその部分は免除というのが一般的です。
ただし、例えばJALは一般更生債権の87.5%をカットして残りを7年分割弁済としていました。つまり100円あった借金のうち、13.5円を7年間で分割弁済という内容です。
また、エルピーダが会社更生を申し立てた際も米国企業のスポンサーがいながら約20%程度の分割弁済だったと記憶しています。
通常株主は100%減資もしくは受け皿企業に事業は移されで出資した金額は全損です。債権者が一部免除を行うので当然とも言えます。
従ってF-Powerについても内容によっては例えば80%債権免除の上、残り20%を7年で分割弁済等の計画もありうるわけです。
少し古い情報ですが、帝国データバンクによると会社更生の弁済率(一般更生債権との理解です)は11.4%でした。つまり9割近くはカットということになります。
正直スポンサーからすると債権者の半分超が納得する最低限の支払いで支援額は限りなく低くしたいというのが心情でしょう。
一方で完全な企業のたたき売りをしないように適正な金額で支援をしてもらえるように調整するのが今回の管財人の仕事になります。
通常の見せ方としては
「単純に会社を清算したら3%しか返ってきません。ただし、このスポンサー買収案を採用すれば総額です20%返ってきます。どうしますか?」
という質問が突き付けられ実態としてよほど納得がいかない限りは更生計画案は承認されます。
F-Power今後の見通しまとめ
エフパワーは会社更生を申し立てたばかりであり、今後の方向性は全くわかりません。
ただはっきりしていることは
①スポンサーの支援を得るためにはF-Powerの企業としての魅力がしっかり残っていることが不可欠であるという点と
②既存の債権者の大幅な債権カット(へたすると80~90%くらい)は避けられず、条件によっては長期分割払いになってしまう可能性がある
ということでしょうか。
問題山積みのエフパワーですが、スポンサーがどのような形で入り再建していくのか興味深く見ていきたいと思います。
続報が出てくれば追記します。
【2021.5.20追記】
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