2021年4月22日にスターウッドキャピタルグループが、インベスコオフィスJリートからの質問状への回答を公表しました。
基本的には質問や要望に対してはゼロ回答です。
対して4月23日にインベスコは金融庁、証券取引等監視委員会、関東財務局にTOB中止命令を裁判所に申し立てる申入れを行いました。それぞれ考察していきます。
前の記事は以下をご覧ください↓
スターウッドがインベスコオフィスリートをTOB【外資ガチ対決】
インベスコオフィスJリートのスターウッドに対する第一手を発表
5/6プレスを見て記事追加しました↓
インベスコオフィスJリートが正式にTOB反対を表明
Contents
インベスコオフィスJリートからの質問状に対してスターウッドキャピタルグループは実質ゼロ回答
EDINETでは4月22日付に提出されたインベスコからの質問状に対する回答を確認できます。ある意味想定通りですが、質問要望についてはゼロ回答です。
- 鑑定NAVを超える価格でスクイーズアウトする予定であるため、インベスコの指摘する強圧性は該当しない。
- 適法性も問題なく、TOBの期間延長は必要なし。
- 運用会社を変えるつもりはないが、合意に至らない場合は第三者の運用会社に運用を委託する。
回答書で印象に残ったのは、運用会社を変えるつもりはないということを何度か協調しており、対話をアピールしていたところと、インベスコオフィスJリートのポートフォリオ稼働率が99.5%から96.3%に下がるということを強調していたところです。
運用会社についてはこれは、インベスコが正直額面通り受け止めることは恐らくないでしょう。
稼働率低下についてですが、これはインベスコが発表しているもので、インカム低下懸念をあおって投資家に売却を促すことを狙っている気がします。
とりあえず勝手に受け止めたメッセージとしては”ごちゃごちゃうるさいこと言わずに早く交渉のテーブルにつくか買収を受け入れろ”と言っている様に感じました。私は部外者ですが。
インベスコオフィスJリートも徹底抗戦へ
まずは公開買付への禁止もしくは停止命令を申し入れ
インベスコは4月23日に本TOBは違法性があるということで金融庁、証券取引等監視委員会、関東財務局に裁判所にTOB禁止命令を出してもらう申立る様、申入れを行いました。
http://www.invesco-reit.co.jp/
西村あさひは太田洋弁護士がご担当されているみたいです。西村あさひの太田弁護士は武井弁護士とならんで組織再編がらみの法制度の専門家で、敵対的買収に関する書籍も多く書かれています。まさに国内トップクラスの専門家といっていいかと思います。
そうした最高のリーガルアドバイザーを擁したインベスコの正式な第二手は公開買付禁止命令の申入れでした。まずはTOB辞退の適法性を疑問視してTOBを中止させるという揺さぶりですね。
正直実現性については以下に述べている通りちょっと厳しいかもしれませんがやはりグローバルのトップ企業同士、そして国内最強といっていい法務の布陣としては想定をしていなかったですし、面白い一手だと感じました。
停止もしくは禁止命令発令の根拠:金商法192条第1項、投信法219条第1項
インベスコオフィスJリートのTOB禁止命令発令要請の根拠条文は以下の通りです。要は、これらに違反しているのでTOBを止める命令を裁判所が出してくださいという要望書を金融庁ほか宛に提出しています:
金融商品取引法192条第1項
”裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。”
投信法第219条第1項
”裁判所は、投資証券等の募集の取扱い等につき次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、内閣総理大臣の申立てにより、その行為を現に行い、又は行おうとする者(以下この条において「行為者」という。)に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。一 当該行為者がこの法律若しくはこの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反している場合において、投資者の損害の拡大を防止する緊急の必要があるとき。二 当該投資証券等を発行する投資法人の資産の運用が著しく適正を欠き、かつ、現に投資者の利益が著しく害されており、又は害されることが明白である場合において、投資者の損害の拡大を防止する緊急の必要があるとき。2 第二十六条第二項から第六項までの規定は、前項の規定による裁判について準用する。3 金融商品取引法第百八十七条及び第百九十一条の規定は、第一項の規定による申立てについて準用する。”
これらが適用される要件としてはざっくりいうと①緊急性があり、②公益および投資者保護の必要性があること、③金商法違反があることとなっています。
ざっと調べただけですがそもそもこの条文が適用されたことはほとんどないみたいです。10年前に実質的な法令が施行されてから数十年後初めて適用となりました。
適用された事例もいわゆる投資詐欺案件にかかるところで、要は本条文の適用範囲がまっとうな金融業者以外にも及ばせることができるという使い勝手がポイントだったみたいですね。そういう意味では素人目にはこれを適用させるのは若干無理やり感があるような気がします。
インベスコオフィスJリートのの主張としてはスターウッドのTOBがこの①~③全てに該当するので禁止命令を要請しているみたいです。
①はまずTOB期間の時期が短すぎて投資家が判断できないということと、
②はスクイーズアウトになった場合の価格の公正さは鑑定評価NAVだけでは測れないし、強圧性があり、投資主の損失が発生する恐れがある点、
③違法性の根拠としてはそもそも投信法上スクイーズアウトが認められていない(想定されていない)にも関わらず今回のTOBがスクイーズアウトを前提とした買収となっていること
注)私は専門家ではなく素人ですので、あくまで個人の意見になりますので、以下の記述で何かしらの投資判断、法的行為を行なうことは推奨されません。きちんとした専門家にお問い合わせください。
私見ですが、インベスコオフィスJリートの上記の主張が通り、裁判所へ禁止命令の申立が行われる可能性は低いのではと考えます。
①については人によって意見が分かれるかもしれませんが、すくなくとも5月24日までに売却判断だできることは機関投資家にとっても個人投資家にとっても著しく不利でないように感じます。
②強圧性については理論的にはその通りだと思いますが、既に鑑定NAVより高い金額を出している時点でちょっと苦しいかなと感じます。また、第三者の鑑定価格に基づいたNAVの公正性を余り否定すると制度そのものの自己否定をしていることにつながりかねないので、この部分も説得力が不足しているかなと感じます。
③のスクイーズアウトの適法性について、これは法的判断がより必要な議論になるので結論が出てくるのが楽しみではあります。実務上はスターウッドキャピタルの主張通り、投資主には実質的な救済措置があると思われるので、インベスコオフィスJリートの主張がどこまで認められるのかはちょっと分かりません。
スターウッドキャピタルの主張としては、スクイーズアウトされる投資主に救済措置が無いという指摘に対して、投信法88条と民法709条の不法行為を使えば裁判所を通した救済措置は確保されるという回答です。
投信法第88条
”投資法人が投資口の分割又は投資口の併合をすることにより投資口の口数に一口に満たない端数が生ずるときは、その端数の合計数(その合計数に一に満たない端数が生ずる場合にあつては、これを切り捨てるものとする。)に相当する口数の投資口を、公正な金額による売却を実現するために適当な方法として内閣府令で定めるものにより売却し、かつ、その端数に応じてその売却により得られた代金を投資主に交付しなければならない。”
民法709条(不法行為による損害賠償)
”故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。”
条文を確認する限りはスターウッドキャピタルの主張が素人的には腹落ちします。
金融庁、証券取引等監視委員会、関東財務局が実際どのような判断を下すか分かりませんがインベスコもちょっと厳しいというのは分かっていながらも申入れを行っているように感じます。
上記の3条件が全て当てはまる必要があるということを考えると現実的には中止命令は下りない気がします。ただ、あらゆる可能性を排除せずに実行するのは当然のことですので、申入れをしない理由はありません。
感覚的にはスターウッドキャピタルから受けたジャブ(TOB)に対してカウンター気味のジャブで返している感じで、まだまだお互い渾身のストレートを打ち合ってる感じではないイメージかと思います。準備をしている担当者や弁護士はジャブといったら怒るくらい時間と労力がかかっていると思いますが。
インベスコオフィスJリートとスターウッドキャピタルの今後の展開は?
インベスコによる禁止命令申入れは恐らく不発、振出しへ
この予想が外れてしまうと元も子もないのですが、おそらく禁止命令は下りないのではないかと思います。
インベスコの今後の選択肢
インベスコ側がまず今回の選択肢は禁止命令の申入れ次第ですが、それが却下された場合は従前と変わりません。
- TOBは成立しないと高をくくり、放置
- 非公開化後も運用会社として残れる様スターウッドキャピタルとしっかり契約し、TOBに賛同
- ホワイトナイトもしくは例外的措置としてグループのバランスシートを使って非公開化、もしくはその折衷案
放置は論外として、インベスコの選択肢も決して多くはないのでこのうちのどれかに落ち着くものとみています。ただ、今回の動きからは徹底抗戦するような意思を感じましたので、TOBに賛同することもなさそうです。
一方でスキームを大きく変えてしまうホワイトナイトや自社バランスシートを使った非公開化も導管性要件等の問題が浮上する可能性がありますし、そもそも第三者のホワイトナイトを連れてこれるかの確証はありません。
ホワイトナイトのターゲットが国内であれば野村證券と日興SMBC証券の腕次第です。
↓に対応策については詳細に書いておきました。
インベスコオフィスJリートのスターウッドに対する第一手を発表
スターウッドがインベスコオフィスリートをTOB【外資ガチ対決】
スターウッドキャピタルグループの次の一手
スターウッドキャピタルにとっての次の一手は、現状ではTOB価格を引き上げるかどうかに集約されると考えます。
直近の投資口はTOB価格である20000円を上回って推移しており、市場は20000以上での買取を要求している状況です。
このまま価格帯で推移するのであればTOBの成立は難しくも見えますがどうでしょうか?
前のブログでも触れましたが、通常アップサイドのある企業と違い不動産、特にコア型不動産はドラスティックに価値を上げることは通常難しいので上げられるTOB価格も限定的な可能性があります。
あるいはスターウッドキャピタルは何か勝算があるのかもしれません。
他の対応が必要となってくるのは万が一禁止命令が裁判所によって発令された時と、インベスコが話し合いに応じてきたときです。
個人的な興味としてはTOB成立、非公開化後どのように導管性要件を満たしながらストラクチャーを変えていくのか興味があります。
ファンドのみからの投資にせずに、Co-investment(スターウッドキャピタル運営のファンドへの投資家を何社か招聘した共同投資案件に仕上げれば私募リートでも導管性要件を満たすことができそうですが果たしてどうするんでしょうか。
だからTOB申立のハコがいくつかに分かれているのかもしれません。
いずれにしろバチバチのガチンコ対決に発展すると予想
特に今回のインベスコオフィスJリートの動きを見ていると、おそらく徹底抗戦をしていくことになると思います。TOBの期限が確か5月24日だったと思いますがそれまで何かしらの動きがあるのか、楽しみに待っていたいと思います。